ドローン産業界で仕事をしていると、CRM、SMS、TEM、SORAという4つの略語に出くわす場面が増えてきました。登録講習機関の教則にはすでに盛り込まれており、国土交通省の飛行審査でもこれらの考え方が背景にあることは間違いありません。
しかし、「CRMとTEMは何が違うのか」「SMSとSORAはどう使い分けるのか」と聞かれて、即答できる人はまだ少ないのではないでしょうか?それも当然で、この4つはもともと有人航空の世界で数十年かけて体系化されてきた概念であり、ドローン産業界に本格的に持ち込まれたのはここ数年のことだからです。
この連載では全3回にわたり、CRM・SMS・TEM・SORAそれぞれの「定義」「守備範囲」「違い」を整理したうえで、4つがどのように連動して安全運航を支えるのかを解説していきたいと思います。第1回は、SORAとSMSを取り上げます。
なぜ今、この4つを理解する必要があるのか
2022年12月の航空法改正以降、日本のドローン規制はカテゴリー分類(I・II・III)に基づくリスクベースの枠組みへと移行しました。この流れは、欧州航空安全機関(EASA)が2019年に導入したOpen・Specific・Certifiedの3区分と軌を一にしています。
リスクベースの規制とは、「機体の性能が良ければ安全」「操縦技量が高ければ事故は起きない」という従来の発想から脱却し、「その運航がどれだけのリスクを伴うか」を軸に安全対策の水準を決める考え方です。
この転換の中核にあるのが、SORA(運航リスク評価)、SMS(組織の安全管理体制)、CRM(チームの連携力)、TEM(脅威とエラーへの対処手法)の4つになります。
現時点で、日本の国土交通省はSORAやCRMを法的に義務化してはいません。しかし、登録講習機関の教則にはすでに内容が組み込まれており、今後の業界標準になることはほぼ確実だと考えて間違いないと思います。先行して理解し、自社の運航に取り入れた事業者が、発注者からの信頼獲得で優位に立つはずです。
SORA 「この飛行はどれだけ危険か」を測る物差し
SORA(Specific Operations Risk Assessment)は、JARUS(無人航空機システムに関する国際規制当局連合)が策定した運航リスク評価手法です。2024年5月にカザフスタンで開催されたJARUS総会でバージョン2.5が合意され、同年6月に公開されました。EASAは2025年のED Decision 2025/018/Rによって、SORA 2.5をEU加盟国の「Specific」カテゴリー運航認可における公式な適合手段として採用しています。
SORAの役割は明快で、「これから実施しようとしている個別の運航が、地上の人や空域の他の航空機に対して、どの程度のリスクを生じさせるか」を10段階のステップで評価することにあります。
具体的には、以下の3つの軸でリスクを分析します。
地上リスク(Ground Risk):
運航エリアの人口密度、機体の大きさ・運動エネルギー、落下時の被害範囲(Critical Area)を基に、地上リスククラス(GRC)を算出する。SORA 2.5では、人口密度マップを時間帯別に考慮する定量的手法が導入された。
空域リスク(Air Risk):
運航する空域で有人機と遭遇する確率を評価し、空域リスククラス(ARC)をa~dの4段階で判定する。空港の有無、管制空域か否か、高度などが判定要素となる。
運用安全目標(OSO):
GRCとARCの組み合わせから導かれるSAIL(Specific Assurance and Integrity Level)に応じて、オペレーターが達成すべき24項目の安全目標が決まる。CRM訓練の実施はOSO #08、#11、#14、#16、#19に直接関わる。
つまりSORAは、「飛行ごとのリスクを数値化し、必要な安全対策の水準を決定する仕組み」です。1回の飛行、1つの運航シナリオに対して適用されるのが特徴です。
(※SORAの詳細解説はこちらの記事もご参照ください)
SMS 「組織として安全を管理し続ける」仕組み
SMS(Safety Management System:安全管理システム)は、ICAO(国際民間航空機関)がAnnex 19で定めた、航空事業者に求められる組織的な安全管理の枠組みです。
SORAが「1回の飛行のリスク」を評価するのに対し、SMSは「組織全体として安全をどう管理し続けるか」を定めた継続的な仕組みになります。
ICAOのSMSフレームワークは4つの柱で構成されています。
第1の柱:安全方針と安全目標:
経営者が安全に対する責任を明確にし、安全方針を文書化する。誰が安全管理の最終責任者(Accountable Executive)なのかを明示する。ドローン事業者で言えば、代表取締役や運航管理責任者がこれにあたる。
第2の柱:安全リスク管理:
ハザード(危険要因)を特定し、リスクを評価し、低減策を講じる。SORAによる飛行前のリスク評価は、この柱の中に位置づけられる。
第3の柱:安全保証:
安全対策が実際に機能しているかを監視・測定する。運航データの記録と分析、定期的な内部監査、KPIの追跡がここに含まれる。
第4の柱:安全推進:
教育、訓練、情報共有を通じて、組織全体の安全文化を育てる。CRM講習やヒヤリハットの共有会は、まさにこの柱の実践。
米国FAAは近年、チャーター航空会社やエアツアーオペレーターにもSMSの導入を義務化する規則を発出しています。ドローン産業界でも、ICAOがUAS向けSMS研修コースを提供するなど、国際的に導入の流れが加速しています。
日本では現時点でドローン事業者へのSMS義務化はありませんが、有人航空では航空安全プログラム(SSP)の下にSMSが位置づけられており、ドローン産業界への適用拡大は時間の問題だと考えています。
SMSの本質は、安全管理を「個人の意識や経験」に頼るのではなく、「組織の仕組み」として機能させることにあります。
(※SMSの詳細解説はこちらの記事もご参照ください)
次回予告
第2回では、チームの連携力で安全を支える「CRM」と、その実践手法である「TEM」を解説します。SORAとSMSが「仕組みと評価」の枠組みだとすれば、CRMとTEMは「人の力」で安全を支える枠組みです。
▶ 【第2回】CRMとTEM ― チームの連携力と、脅威・エラーへの対処手法を理解する(近日公開)

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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