〜「個人の技術」ではなく「チームの力」が安全を生む〜
1. なぜドローンサービスの現場にチームワークが必要なのか?
ドローンサービスの現場では、これまで操縦者個人の技量(テクニカルスキル)が重要視されてきました。しかし、実際に発生した事故を分析すると、その多くは操縦者の技術不足ではなく、「チームとしてのコミュニケーション不足」や「適切な判断が迅速にできなかった」など、チーム運航の問題に原因があるケースが多いと言われています。
ここで登場するのが、CRM(Crew Resource Management)という考え方です。CRMとは、「チーム全体の人的資源を効果的に活用し、安全を守るための手法」です。
ダイヤサービスでは5年ほど前よりCRMの概念を自社の運航に積極的に導入し、その前後での比較で満足できる成果を実際に得られております。また、DOSAの登録講習機関の学科ではCRMだけで1コマ時間を割きますし、ドローンスクールとしてCRM講習(基礎編)・CRM講習(実地編)をご用意し、チーム運航の重要性を広めています。
2. CRMとは具体的にどのようなものか?
CRM(Crew Resource Management)は、もともと航空業界で発展した「チームワークを活かした安全管理手法」で、現在は鉄道業界や医療業界でも積極的に導入されております。
ところで、航空業界のCRM概念の標準は以下の通りと言われております。
航空業界におけるCRMの概念
- チームワーク(Teamwork)
→ 個人のスキルに依存せず、チーム全体で運航の安全性を向上させる - 状況認識(Situational Awareness)
→ 現場のリスクや環境変化を正しく把握する - 意思決定(Decision Making)
→ 適切な情報をもとに、迅速かつ正確な判断を行う - コミュニケーション(Communication)
→ チーム内での情報共有を徹底し、誤解や伝達ミスを防ぐ - リーダーシップとフォロワーシップ(Leadership & Followership)
→ チーム全体の安全意識を高め、適切な役割分担と協力体制を築く - ストレス・疲労管理(Stress & Fatigue Management)
→ 操縦者や監視員の心理的・身体的負担を管理し、安全な判断を維持する
これをドローン運航サービスに適用すると、次のようになります。
つまりドローン運航現場では、CRMの考え方を基に「個人の技量」から「チーム全体の安全管理」へと意識を変えることが重要となります。
しかし、こうした要素を「知っているだけ」では、現場での安全は守れません。具体的な事例を通じてCRMがどのように機能するかを見ていきましょう。
3. ドローンサービスの現場で実際にあった問題(事例から学ぶCRM)
【事例①:状況認識の不足】
ある現場で、操縦者が飛行中に強風が吹き始めたことに気づいていましたが、これをチームと共有しませんでした。
監視員も気象の変化に気づいていましたが、「操縦者が把握しているだろう」と考え、声をかけませんでした。結果的に、突風によりドローンは操縦不能になり危うくフライアウェイするところでした。
- CRMによる改善策
→『風速が変わった時点で、操縦者・監視員が即座に情報を共有する』ルールを決める。
→ 全員が常に同じ情報を持ち、状況の変化に早めに対応できるようにする。
【事例②:コミュニケーションミス】
ある飛行現場で、操縦者が『高度を10メートルに』と指示を出しましたが、監視員は「10メートル上昇」なのか「10メートルに下降」なのか理解できませんでした。結果的に、間違った高度へ誘導され、機体が障害物に接触寸前になりました。
- CRMによる改善策
→ 『指示は具体的に、数値+上昇・下降を明確に伝える』など、曖昧さを排除する決まりを作る。
→ 指示を受けた側が必ず「復唱」し、認識が一致していることを確認する。
3. CRM導入後の現場の変化(メリット)
CRMを導入すると、現場では次のような変化が起きます。
5. ダイヤサービスの取り組み (CRMを組み込んだ教育と運用)
ダイヤサービスでは、CRMをいち早く自社運航に取り入れました。さらに、運営するドローンスクール『DOSA』では、操縦者だけでなく、監視員や運航管理者を対象にしたCRM講習を提供しています。
また、運航評価サービス『D-LOSA』を通じて、チーム全体のCRM能力を客観的に評価し、現場の安全性を高めています。
6. まとめ – CRMの導入が競争優位につながる
CRMは単なる知識ではありません。
重要なのは、『状況認識』『コミュニケーション』『意思決定』を「現場で実際に使えるレベル」まで磨き上げることです。操縦技量だけでは到達できない高い安全性を得るために、CRMを取り入れたチーム運航を今すぐ始めましょう。ダイヤサービスは、その先駆者として、この分野での取り組みを積極的に支援しています。
次回は「ノンテクニカルスキル(NTS)の重要性 – 安全運航を支える”見えない力”」について解説します!