事故の概要
1月27日、山梨県都留市において、災害物資輸送ルートの検証飛行中に、重量約10kgのドローンが住宅の駐車場に墜落・炎上する事故が発生しました。駐車中の車両に衝突し、窓ガラスが破損、駐車場の一部が焼損しましたが、幸いにも人的被害はありませんでした。
事故後の反応について思うこと
今回に限らずですが、報道後、SNSなどでは「国産機だから問題が起きた」「DJIなら大丈夫だったはず」といった声が必ず散見されます。しかし、正直に申し上げて、こうした議論はあまり建設的ではないと感じています。
なぜなら、どのような機体であっても、人間が設計し、人間が運用する以上、墜落リスクをゼロにすることは不可能だからです。
むしろ、私たちが真剣に向き合うべきは、「墜落の可能性が残る前提で、いかに事故を防ぎ、万が一発生した際の被害を最小限に抑える体制を整えているか」という点です。
今回の事故が示す本質的な課題
事業者の説明によれば、今回の墜落は何らかの原因による電線への接触が引き金だったとされています。今回は自律飛行での事故でしょうから、想定される原因としては以下が考えられます。
- フライトルートプラン作成時の設定ミス:飛行高度や経路の設定に誤りがあった可能性
- 地図データや障害物情報の不備:電線などの障害物情報が反映されていなかった可能性
- ハードウェアの不具合:機体のセンサーや制御系統に問題が発生した可能性
- ソフトウェアの不具合:自律制御プログラムの想定外の挙動や判断ミス
自律飛行においては、操縦者の視認性ではなく、事前の計画精度とシステムの信頼性が安全性を左右します。
個人の注意力だけでは限界がある
こうした事故を防ぐために、「もっと慎重にチェックしよう」「気をつけよう」という呼びかけがよく聞かれます。
しかし、現実には限界があります。
- ルート設計担当者が、すべての障害物を完璧に把握できるとは限らない
- 地図データの精度や更新頻度に依存する部分がある
- 機体のハード・ソフトは、想定外の挙動を起こすことがある
- 業務が繰り返されるほど、慣れによる見落としが生じやすくなる
つまり、どれだけ優秀で注意深い担当者がいても、一人の力だけで安全を保ち続けることは困難なのです。だからこそ必要なのが、個人ではなく、組織やチーム全体で安全を支える仕組みです。
航空業界が実践してきた「チームで安全を守る考え方」
実は、航空業界では何十年も前から、この課題に向き合ってきたと言われています。そこで生まれたのが、CRM(Crew Resource Management)とSMS(Safety Management System)という考え方です。
CRMは、「人間は必ずミスをする」という前提に立ち、チーム全体でそのミスをカバーし合い、事故につながる確率を下げる手法です。
SMSは、組織として危険を洗い出し、記録し、継続的に改善していく安全管理の仕組みです。
どちらもスローガンや精神論ではなく、日々の業務の中で実践できる具体的な手順として設計されています。
自律飛行に必要な「チームでの安全確認」とは
では、ドローンの自律飛行において、チームで安全を守るとは具体的にどういうことでしょうか。例えば、以下のような問いに即座に答えられる体制が整っているかが重要です。
- ルート上の障害物データ(電線を含む)は、いつ、誰が、どのような情報源をもとに整備したのか?
- 使用している地図データの鮮度と精度は、運航エリアに対して十分か?
- 飛行前のルートチェックは、誰が、どのような基準で承認しているのか?
- 機体のセンサー類やフェイルセーフ機能の動作確認は、どの頻度で実施されているか?
- 異常が検知された際の自動退避ロジックは明確か? 退避先は安全性が担保されているか?
- 運航後のログ解析は実施され、気づきや異常の兆候は次回飛行計画に反映されているか?
これらは、機体が国産か海外製かとは無関係に、運航体制の品質そのものを表します。そして、品質は議論では決まりません。準備によってのみ決まります。
万が一、事故が起きてしまったときのために
どれだけ万全の準備をしても、事故のリスクをゼロにすることはできません。つまり、もうひとつ重要なこととして、事故が起きた後の初動対応が挙げられます。
今回、幸いにも人的被害はありませんでしたが、もし落下地点が人の上空だったら・・・そう考えると背筋が寒くなります。重量約10kg、展開時サイズ約1.7m×1.5mの機体が落下するということ。それだけで、地上リスクは十分に深刻です。
このため、事故が発生した瞬間に、現場が何を優先し、どう動けるかという初動対応の設計が不可欠です。具体的には、以下のような対応が即座にとれる体制が求められます。
- 通報の前に、二次災害の防止(火災の拡大、機体からの発火リスクの判断)
- 周囲の立入制限と誘導
- 万が一負傷者が出た場合の応急手当(止血を含む外傷手当、搬送など)
- 関係機関への迅速かつ正確な通報
特に応急手当については、「善意でやれたらいい」というオプションではなく、運航体制の一部として標準装備すべきものだと考えていますし、ずっと訴え続けていることでもあります。事故後の初動対応の質が、運航者の社会的信用を大きく左右するからです。
同じ業界で活動する皆さまへ
国産機か、海外製か、そうした議論が、現場の安全性を高めることはありません。勝つのは、議論が上手い人ではなく、地道に準備を積み重ねているチームです。
ドローンの運航が増えれば増えるほど、「飛ばせるか」よりも「飛ばしてよいか」という判断の重みが増していきます。その判断を、個人の経験や気合いに依存し続けるのは、そろそろ限界ではないでしょうか。
CRMとSMSを研修で終わらせず、日々の運航手順に落とし込みましょう。研修もしていないようであれば、早急に実施しましょう。そして、応急手当を含めた緊急時対応を、標準装備として実装しましょう。緊急対応手順書は作るだけではなく、それを用いて定期的に訓練しましょう。

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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