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「義務なのに、できないまま」を終わらせたい。ドローン産業界に「応急手当スキル」の必修化を

私は忘れません。ちょうど一年前、千葉市のドローン産業セミナーでのできごとです。
自身の登壇時に「ドローンを飛ばすことがある人?」には会場180名のうち半分ほどが手を挙げました。
「負傷者の救護ができる人?」で手は十数人に。
「止血ができる人?」では、わずか数人でした(その多くは当社の受講者でした)。

この光景は、意識の問題だけでは片づきません。制度と教育、そして現場運用の間に空白があり、結果として「やるべきことが、できないまま」になっていると感じました。

法令・指針が求めていること

無人航空機の事故や重大インシデントが起きた場合、飛行を止めて負傷者の救護など危険拡大を防ぐ措置をとる義務があります。事故時の報告要領の資料には、ガーゼや清潔な布での止血など、可能な応急手当を具体的に挙げています。つまり「何をするか」の方向性は示されています。にもかかわらず、現場では動く形になり切れていない。ここにギャップがあります。

止血だけでは足りない。現場で回す3つの要素

私が最低限のセットだと考えているのは、一次救命処置(BLS)・外傷手当・必要に応じた搬送の三つです。止血はその一部であり、全体の流れの中で機能させることが重要だと思います。

まず一次救命処置(BLS)です。反応と呼吸の確認、胸骨圧迫、AEDの使用といった初動を、迷いなく実行できる状態にしておきます。
次に外傷手当
です。出血だけでなく、包帯や固定、熱傷・熱中症の初期対応、保温など、現場で起こりやすいケガへの基本対応を短時間で確実に行えるようにします。
そして搬送です。無理な移動は避けつつも、安全確保のために体位管理や短距離の移動が必要になる場面があります。搬送方法についてもある程度知っておく必要があります。

なぜ「できないまま」になるのか

理由はシンプルです。ひとつは実技の反復が不足していることです。止血や固定、体位管理は手技であり、知識だけでは体が動きません。
もうひとつは、役割と合図(コール)の設計が曖昧なことです。操縦者、運航管理者、補助者など、チームで「誰が何を、どの順番でやるか」を普段から決めておく必要があります。
さらに、「めったに起きない」という油断もあります。発生確率が低く見えても、初動の数分が結果を左右します。準備の有無で被害の広がりは変わります。

提言:応急手当の必修化を、制度の実装としてやる

ここで言いたいのは、私の会社だけの話ではありません。ドローン産業界全体で、応急手当を必修化し、現場で動く形にすることです。法令は事故時の救護を求め、指針は止血などの応急手当まで触れています。ならば私たちは、その求めを制度として実装し、どの現場でも同じように回る仕組みに整えていくべきだと考えます。

私は、産業界として次の4点を進めることを提案します。いずれも止血だけに偏らず一次救命処置(BLS)/外傷手当/必要に応じた搬送をひとかたまりで身につける前提です。

  • 登録講習機関:学科だけでなく対面実技の必修化を標準にします。BLSの動作、外傷手当(直接圧迫→保持→固定→保温)、状況に応じた搬送を短時間の反復ドリルで修了基準「できる」まで到達させます。
  • 事業者・運航チーム:現場要領に救護フローを明文化し、救護キットの標準(中身・配置)と役割分担を定めます。訓練は月1回・15〜20分のドリルで継続します。
  • 発注者・主催者:委託条件・開催要項に「応急手当訓練の実施」「救護キット標準」「救護フロー掲示」を入れ、価格・納期と同じテーブルで安全基準を扱います。
  • 保険・自治体・団体:加入条件・補助・認証の評価項目に「必修化の実施状況(訓練記録・装備・体制)」を加え、整備が進むほど有利になる仕組みにします。

最後に

上記提言は、かつて当社に在籍していたドローンナースKこと石澤と「絶対にやり切ろう」と約束をしていたことでもあります。あいにく志半ばのまま1年7ヶ月前に、病気で他界をしてしまいました。唯一の理解者を失い、当時は気落ちもしましたが、約束は守るためにある。零細企業なので、やり方も何も分かりませんし遠回りしまくりかもしれませんが、それでもなお、絶対にやり遂げるつもりでおります。そんな思いを持ちながら、明日は墓前に近況報告をしてきます。

すみません、余談が入ってしまいました。この提言に関して賛同いただける方、お力を貸していただける方、業界内の垣根を超えて手を組んで進めていきたいと思います。もしいらっしゃれば、ぜひともお声がけください。

それから繰り返しになりますが、当社のドローン応急手当講習は、団体や立場に関係なく対応しています。4名以上お集まりいただければ、交通費等のご負担はお願いしつつ、全国どこでも伺います。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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