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【連載④】みんな本当は気づいている。ドローン運航と気合い頼みの終わり方

「大事にならなくてよかった」で終わらせない。
ドローン運航に応急手当スキルを組み込むということ

この文章は、

「大きな事故はないけど、もし何かあったら、自分たちはどこまでやれるんだろう?」

と、うっすら不安を抱えている人に向けて書いています。

ドローン産業界では「事故ゼロ」がよく使われます。もちろんそれは大事な指標です。でも、現実の現場では、

  • パイロットや補助者が、体調を崩すこともある
  • 現場で転倒や打撲、出血を伴うケガが起きることもある
  • 撮影や点検の相手(お客様側)が、急に倒れるかもしれない

ドローンの事故とは別に、「人の身体のトラブル」は、普通に起こり得る話です。それでも多くの現場は、どこかで

「救急車を呼べばなんとかなるだろう」

と考えていないでしょうか。

「救急車を呼ぶ」で仕事は終わり…ではない

当然ですが、具合が悪い人やケガ人が出たら、119通報は必要です。間違いありません。ただ、そこからの数分〜十数分を、どう過ごすかで結果は変わります。

  • 誰が119に電話するのか
  • 誰が傷病者のそばにつくのか
  • まわりの人をどう動かすのか
  • 何をしてよくて、何をしてはいけないのか

これが決まっていないと、現場はだいたいこうなります。

  • 誰も動けず、その場で固まる
  • 「誰かがやるだろう」と思って、逆に誰も声をかけない
  • 過剰に動いてしまい、かえって悪化させてしまうこともある

事故が起きなかった日のヒヤリと同じように、「大事にならなくてよかった」で終わらせる出来事 が、静かに積み重なっていきます。

「起きない前提」で現場を回していないか

ドローンの危険性については、みんなある程度意識しています。

  • 墜落したらどうするか
  • バッテリーがトラブったらどうするか
  • 通信が切れたらどうするか

こういった「機体側のトラブル」は、議論されやすいし、マニュアルにも書かれやすい。

一方で、

  • 現場で誰かが倒れたら?
  • プロペラで指を切って、大量に出血したら?
  • 高齢の見学者がふらついて転んだら?

こういう人のトラブル は、「まあそんなことは起きないだろう」と、無意識に棚上げされているケースが多いと感じています。

でも本当は、起こさないように気をつけることと同じくらい、

起きてしまったときに、「誰が」「何をどこまでやるか」を決めておくこと

も、運航の一部であるはずです。

応急手当は「特別な人の専門スキル」ではない

応急手当というと、

  • 医療従事者レベルの高度な知識
  • 完璧な手技での対応
  • 一般人にはハードルが高いもの

こんなイメージを持っている人も多いかもしれません。でも、現実の現場で本当に必要とされるのは、もっとシンプルなことです。

  • 意識があるか/ないかを判断する
  • 呼吸の有無を確認する
  • 大量出血を一時的にでも抑える
  • 危険な場所から安全な場所へ移すかどうか判断する
  • 救急隊が来たときに、状況を整理して伝える

これらは「医師だからできること」ではなく、事前に学び、訓練していれば、多くの人が担える役割です。逆に言えば、何も知らないままだと、人は固まってしまいます。

「触って悪化させたらどうしよう」
「責任を取れないから、何もできない」

こうして“何もしない時間”が伸びていくことは、救える命を見捨てていることと同じです。

「誰がやるか」を、運航の中で決めておく

ドローン運航に応急手当スキルを組み込むというのは、「救命講習に行っておく」だけの話ではありません。運航の流れの中で、

「誰が動くのか」を事前に決めておく

ことが重要だと感じています。

例えば、

  • 現場の中で 「まず駆けつける役」 を決めておく
  • その人が対応している間は、他のメンバーが 119通報/誘導/安全確保 を担当する
  • 運航チーム全員が、その役割分担を知っている

こうしておくだけで、いざというときの一手目が変わります。「応急手当ができる人がいたら動く」ではなく、

「この現場には、最初に動く役割が決まっている」

状態にしておくこと。ここに意味があると私は思っています。

「最低限ここまでは」をチームで共有しておく

では、具体的にどこまでできればいいのでしょうか。理想を言えばキリがありませんが、ドローン運航の現場でまず押さえておきたいのは、このあたりです。

  • 意識・呼吸の確認
    倒れている人を見たとき、「意識があるか」「呼吸があるか」を、慌てず確認できるか。
  • 大量出血への対応(止血)」
    止血ポイントを知らなくても、せめて「押さえる」「圧迫を続ける」といった基本動作はできるか。
  • 安全な体位や環境の確保
    すぐそばを車が通る/足場が悪い/機体が近い、そんな状況から、傷病者を守れるか。
  • 119通報時の情報整理
    何が、いつ、どこで起きたのか。傷病者は今どういう状態か。誰が応急手当中か。 こういった情報を、落ち着いて伝えられるか。

これらは「器用な人だけがやること」ではなく、現場にいる全員が、最低限イメージを持っておくべきラインです。

もちろん、実際に身体を動かして練習しておくに越したことはありません。でも、まずは 「どこまでを狙うのか」をチームで共有することから始まります。

応急手当スキルが、「現場の空気」を変える

応急手当スキルの話をすると、

「そんなに頻繁に使うものじゃないし…」
「うちの現場では、そこまでの事態は起きていない」

という声も聞こえてきます。それは、ある意味でその通りです。頻繁に使うような現場なら、それはそれで問題です。でも、実際に学んで、定期的に訓練をしていくと、分かりやすく変わるものがあります。それは、現場の空気です。

  • 「もし何かあっても、このチームなら何とかしてくれる」という安心感
  • 初めて現場に来る人に対しても、「何かあったら私らが動きます」と言える自信
  • 「無理をして倒れるくらいなら、今日はやめましょう」と言える雰囲気

応急手当スキルは、単に「救える命を増やす」ためだけのものではなく、

「無理をしない選択」をしやすくするための、見えない支えでもあると感じています。

私自身も、最初は怖かった

少し個人的な話をすると、私自身も、最初から積極的に人に触れられたわけではありません。

  • 触って悪化させたらどうしよう
  • 下手なことをして責任を問われたらどうしよう
  • そもそも何をしていいのか分からない

そんな怖さが、ずっとありました。

でも、学んで、何度も訓練し、現場でのシミュレーションを繰り返すうちに、少しずつ感覚が変わっていきました。

「完璧でなくていい。やれる範囲で一歩踏み出すことに意味がある」

と、心から思えるようになったのは、実際に身体を動かして練習してきたからです。応急手当スキルは、「知識として知っている」と「身体で覚えている」とでは、まるで別物です。

この記事を読み終えたあなたへの問いかけ

せっかくここまで読んでもらったので、最後にひとつだけ、現場に持ち帰ってほしい問いがあります。

今、あなたのチームで
誰が、どこまでの応急手当をできるのか、はっきりと言えますか?

  • 何となく「あの人が詳しそう」になっていないか
  • 体調不良やケガが起きたときの「一手目」が決まっているか
  • 119通報の役割分担や、現場の安全確保の流れは共有されているか

もし少しでも「いや、そこまでは決まってないな」と感じたなら、それはもう、十分すぎるスタートラインです。

応急手当スキルを“特別な誰か”に任せるのではなく、ドローン運航そのものの一部として組み込んでいくこと。それが、「大事にならなくてよかった」で終わらせない現場への、ひとつのステップになると私は信じています。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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