無人航空機操縦士の実地試験に関する改正案が国土交通省から示されました。その内容の一部に、私たちは強い懸念を抱いています。
改正案では、
- 作動前点検+作動点検:12分
- 飛行後点検+飛行後記録:5分
という時間制限が明示されています。一見すると「効率化」「標準化」に思えるかもしれません。しかし現場を知る者からすれば、これは到底成立しない数字です。
バッテリー残量や異常発熱、プロペラ損傷、機体フレームの外観、通信機器接続、GNSS受信状態…。
飛行後にはバッテリー劣化や損傷、異常振動の痕跡、ログ保存と記録管理…。これらを確実にこなして初めて「安全な点検」と呼べます。(何なら業務の際は、弊社では一部重要保安部位は必ずダブルチェック←修了審査でそこまで求められないのは承知。)
実際、弊社が受講生向けに限定公開しているDJI機体での「作動前点検+作動点検」の教材動画では、移動など余計な時間を一切省いても18分以上を要しています。現場で実際に行えば、それ以上かかる可能性すらあります。
この事実を踏まえれば、改正案の「12分」は現実と大きく乖離していることは明白です。12分や5分で終わるはずがありません。終わると言うなら、それは点検を省略しているか、形だけ整えた「やったフリ」ではないでしょうか。
国交省側は「試験員が受験者の作業を確認すれば、やったフリにはならない」と主張するかもしれません。しかし、点検は外見上の所作だけで「終わったように見せる」ことが可能です。時間制限がある以上、受験者はどうしても「速さ」を優先し、試験員もその場で細部まで全てを検証することはできません。
結果として、「やっているように見えて、実際にはやっていない」状態を制度が助長することになりかねません。
点検は本来、安全を確保するための根幹的な工程です。これを時間で縛れば、必ず形骸化し、やがて事故増加という形で跳ね返ってきます。
では、なぜ時間制限が設けられようとしているのでしょうか。
もし「効率化」「標準化」を口実にしているのだとすれば、それは安全文化の理解不足であり、現場実務を知らない机上の制度設計です。制度が「やったフリ」を容認する枠組みを作れば、受験者は制度に従うしかなく、やがて現場の安全意識そのものが蝕まれていきます。
安全は、効率や外形的な統一のために犠牲にしてよいものではありません。
むしろ、安全を守る姿勢を制度の隅々にまで組み込むことこそ、無人航空機の社会受容性を高める唯一の道です。
私たちは、この改正案に強く反対します。そして読者の皆さまにも、ぜひ考えていただきたいのです。
「安全」とは誰のためのものなのか。
操縦者のためだけではなく、現場で働くスタッフのためでもなく、最終的には社会全体の信頼のためにあります。
点検はストップウォッチ競争ではありません。形だけの効率化が招くのは、事故という最悪の結果です。
この問題に、私たちは声を上げ続けていきます。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。