ドローン運航を外部に委託するとき、「見積金額と納期の比較で業者を決める」。現場ではよくある意思決定です。ですが、万が一の事故が起きた際に最初に問われるのは「どの自治体・企業が発注したのか」という点です。操縦者個人の過失かどうかより先に、発注者の選定責任と説明責任が可視化されます。ここを見誤ると、費用対効果どころか、社会的信用の毀損という大きすぎる代償を背負いかねません。
では、発注者は何を基準に選ぶべきか。結論は明確です。「安全を守る力」で選ぶこと。安全体制がある事業者に委託していたという事実は、たとえ不測の事態が起きたとしても、発注者を守る実効的な「保険」になります。逆に、安全体制の弱い事業者を選んでいた場合、世論や議会、社外ステークホルダーからの追及は苛烈になりがちです。
事故が起きたとき、報道はこうなる
【速報】市内イベントでドローン墜落 主催の○○市が外部事業者に委託
○月○日、○○市主催のイベントで飛行中のドローンが観客席近くに墜落。軽傷者が出た。市の担当部署は「安全確認は事業者に任せていた」と説明。事業者の点検記録や緊急対応の訓練状況などは「確認中」としている。
この短い文面だけで、読み手は「委託元=自治体・企業」の準備不足を想像します。「任せていた」は免責ではありません。どのような体制の事業者に、どのような条件で任せたのか。まさに発注者が説明すべき問いが突きつけられます。
責任は「点」ではなく「線」で問われる
事故直後の初動対応、メディア説明、議会・株主への報告、再発防止策の策定、入札・取引上の信用回復・・・。責任は一回の会見で終わらず、長い時間軸の「線」として継続的に問われます。そこで効いてくるのが、「委託先の安全体制を事前に確認し、記録を残していた」というファクトです。「チェックをしていない・残していない」それだけで、以降の全工程が防戦一方になります。
「保険」としての選定:可視化と記録が鍵
発注者を守る保険としての選定は、二段構えで設計できます。
- 可視化:事業者の安全体制を、質問で具体化してもらう(誰が計画し、誰が確認し、誰が支援するのか/点検・整備はどう運用し、どう記録するのか 等)。
- 記録:事前の確認事項、提示資料、説明内容、授受日付を残す。
この可視化と記録のセットは、事後の説明責任を支える土台です。
チェックリストという実装
私たちは発注側が価格以外の軸で事業者を比較できるよう、7つの安全チェックを整理しました。
項目は、運航管理の仕組み/規程・ルール/点検・整備/資格と相互チェック/緊急時対応(応急手当含む)/安全情報の説明力/外部への説明・評価です。発注者の説明責任に直結する論点に絞り、現場運用の有無まで踏み込んで確認できる設計です。
このリストの価値は、単なる「質問集」ではなく、発注者の盾になる証拠作りにあります。例えば、「点検記録はどの様式で、どれくらいの頻度でレビューしていますか?」と尋ね、そのテンプレートを受領・保管しておく。あるいは、「緊急時の応急対応訓練は何名がいつ受けましたか?」と聞いて、受講修了のエビデンスを控える。これらの一つ一つが、万一のときにやるべきことをやっていた事実として効いてきます。
それでも気になる「価格」とどう折り合うか
「安全体制が整った事業者は高いのでは?」という疑問はもっともです。確かに、点検・整備や訓練に投資している事業者は、見積金額が安さ一辺倒の事業者より高くなる傾向があります。
しかし重要なのは、その価格差は「保険料」にあたるという考え方です。仮に数万円安い業者を選んで事故が起きれば、発注者が負う説明責任・信用失墜リスクは数千万円規模に膨らみます。反対に、数万円高くても安全体制を備えた事業者を選んでいれば、「最善を尽くした」と説明できます。
折り合いをつける方法としては、
- 小規模案件から試す → 安全体制を確かめてから本格発注につなげる
- 安全要件を契約条件に入れる → 「年次安全報告の提示」「応急手当訓練済み人員の配置」など
- 「安全込みのコスト」で比較する → 飛行単価だけでなく、体制・記録・訓練を含めた総合力で判断
こうすれば単なる「高い・安い」ではなく、価格と安全の最適なバランスを見極めることができます。
次回(後編)の予告
後編では、上記7項目を一つずつ掘り下げ、実際の確認質問例とNGシグナル(要注意サイン)を提示します。チェックリストはすでにPDFとして公開していますので、合わせてご参照ください。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。