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【連載②】現場の違和感が、応急手当・CRM・チームビルディングそしてSMSになった

第1回では、私たちがドローン事業の前半5年で機材調達と売上に向き合い、後半5年で現場に積み上がった違和感を起点に、安全マネジメントへ投資の軸を移していった背景をお話ししました。今回は、その違和感の正体にもう少し踏み込んでみたいと思います。

最初に正直な話をすると、私たち自身も最初からこの結論に辿り着けたわけではありません。操縦技量や機材の話に答えを求めて、何度も何度も遠回りしました。現場の課題をより良い機材やより高い操縦技量で解決できると信じていた時期もあります。実際、その努力が必要だったことも間違いありません。

ただ、現場はある段階から、別の問いを突きつけてきました。
「どれだけ飛ばせるか」よりも、「チームとして、どれだけ安定して運航を回し続けられるか」。
この問いが、私たちの中で少しずつ重さを増していったのです。

飛行は成立しているのに、運航がスッキリしない

「飛行ができる」という事実と、「運航が回る」という手応えは、似ているようで別物でした。
そもそも私たちは、操縦技量で勝負できる会社だとは微塵も思っていません。むしろ、限られた操縦技量のままでも現場を成立させ、安定して回し続けるには何が必要かを、現場で考え続けてきました。

たとえば、ブリーフィングは終わった、全員うなずいている、反対意見もない。でも、現場の空気がなんか重い。「本当にこれでいいのか」が言葉にならないまま、時間だけが進む。

別の例では、飛行中は問題が起きていないのに、終了後の振り返りで「実は◯◯が気になっていた」「あの時ちょっと迷っていた」という声がぽつぽつ出てくることがある。つまり、問題がなかったのではなく、問題が言語化されなかっただけだったという感覚。

この言語化されない違和感は、操縦技量の問題とは別の場所にあることが多い。私たちはそう確信するようになりました。

だから私たちは講習を「現場の違和感」から組み立てた

現場で起きる違和感は、目に見えるようで見えにくい。でも整理していくと、原因はだいたい「人と仕組みの境界」に集まってきます。

  • 役割分担が曖昧で、判断の責任がにじむ。
  • 情報共有の形式はあるのに、重要情報が実質的に抜け落ちる。
  • ブリーフィングが“やったこと”になり、前提が揃い切らない。
  • ヒヤリや改善が個人の経験で止まり、次に活きない。
  • そして現場の空気が固くなり、言い出しにくさが生まれる。

これらは、どれか一つが致命的というより、小さなズレが同時に起きて、現場の安定感をボディーブローのようにじわじわと削っていくタイプの問題です。非常に厄介で、見落とされやすい。

ここで一度、読者の皆さんにも問いかけてみたいと思います。あなたの現場では、ブリーフィングは前提条件・足並みをを揃える場になっていますか?それとも、いつの間にか実施した事実だけが残っていないでしょうか。

そしてもうひとつ、私たちが強い違和感として抱え続けてきたことがあります。それは、何かあったときに、何でもかんでも操縦者の責任にされてしまう構造です。

当初、私たちはフライトだけを任されることがほとんどでした。空域や運航設計、関係者調整、現場の前提づくりは切り離されたまま、「飛ばしてほしい」という依頼です。そして何かが起きれば、背景や仕組みの話は置き去りになって、「操縦者の問題だった」で終わってしまう。

悔しい思いを何度もしてきました。正直、今でも根に持っている案件もあります(女々しくてスミマセン)。
でも同時に、それは個人の問題ではなく、運航をチームの仕事として設計できていないことの表れだとも感じるようになりました。

この構造を何が何でも変えたかった。責任を甘くしたいわけではありません。責任の所在と判断の前提を、チームとして揃えたかったのです。

だから私たちは、講習を現場の違和感から組み立てた

私たちは、この違和感を気のせいにしたくありませんでした。そして、個人の経験や気合いに集約させたくもありませんでした。講習という形は、私たちにとって「売るためのメニュー」というより、現場の違和感を言語化し、再現性のある仕組みに変えるための翻訳機でした。

ここで少し補足すると、私たちが講習を整えてきた順番は、教科書的な順序とは少し違います。論理的な順ではなく、現場が切実に必要としていた順だったからです。

最初に取り組んだのは応急手当でした。「最悪を防ぐ」という思想が、何より先に必要だと感じたからです。起きたときに現場が崩壊しない前提を作るための、現実的な備えです。この発想が早い段階で定まったことで、私たちの運航は「起きない前提」から「起きたときに崩れない前提」へと、足元の考え方が少しずつ変わっていきました。

次にCRM。情報が早く正確に回るか、異常の兆しに気づいた人が遠慮なく声を上げられるか。操縦技量を補い合い、現場の判断を安定させるためのチーム連携の形が必要だと痛感しました。異常の兆しを最初に見つけた人が、遠慮なく言える空気はありますか?この問いに自信を持って答えられる現場は、想像以上に強い。私たちは現場でそれを何度も実感してきました。

ただ、いきなりCRMを導入しても難しいかもしれない。そう感じる場面が増え、その手前にある土台として
チームビルディングの必要性がはっきりしてきました。
前提と期待値を揃え、同じ現場を同じ解像度で見られる状態を作らなければ、CRMは現場で機能しにくい。ここは私たちが現場で学んだ大きな気づきです。チームの関係性を良くすること自体が目的なのではなく、運航をチームの仕事にするための前提を揃えることが目的でした。

そして最後にSMS。応急手当、CRM、チームビルディングを通じて得た学びや現場の判断の型を、組織の仕組みとして固定化し、再現性を持って回し続けるためのフレームワークとして位置づけました。
運航が属人的なうまくいった経験に留まらず、組織の標準として積み上がっていく。そのための器がSMSでした。

今はまだ地味。でも近い将来、絶対に必要になる

こうした話は、正直、派手ではありません。ドローン産業界の空気としても、まずは機体や操縦技量に注目が集まりやすいのは自然かなと思うところも多々あります。

ただ、運航の規模が大きくなるほど、関係者が増えるほど、そして社会との接点が広がるほど、人と仕組みの違和感は無視できなくなっていきます。運航が複雑になるほど、「誰がうまいか」ではなく「チームがどう判断し続けられるか」が問われる。これは、ドローンの用途が高度化していくほど、さらに避けられないテーマになっていくはずです。

私たちはそれを現場で先に体験してきました。だから今、注目されにくくても、必要なテーマから順に講習体系として整えています。

まとめ

チームビルディングもCRMもSMSも応急手当も、私たちにとっては別々のメニューではありません。現場の違和感を見過ごさず、運航を回し続けられる状態に変えるためのお守りみたいなものです。

そしてもう一つ、私たちにとって大きいのは、何でも操縦者責任で終わらせてしまう構造を変えるという問題意識でした。運航はチームの仕事であり、判断の前提と責任の配置は、個人ではなく仕組みとして設計されなければならない。

操縦技量が重要であることは変わりません。ただ、操縦技量だけでは運航の再現性は作れません。
この現実が、私たちの講習体系の出発点です。

次回予告(第3回)

次回は、私たちの基本スタンスである「最終的に運航は内製へ」という考え方と、そのために私たちがどのように伴走できるのかを整理します。

外注が必要な場面は確かにあります。でも、運航を組織の資産として育てていくなら、外注と内製の無理のない線引きと、社内の人が育ち続ける仕組みが欠かせません。

第3回では、回し続けられる運航を現実解としてどう設計するかを、現場目線でお話しします。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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