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【連載①】機材と売上に走った5年、そして価値観が変わった瞬間

ドローン事業を始めた頃、最初に向き合うのは皆さんだいたい同じ現実かなと思います。機材を調達し、案件を取り、目の前の売上を積み上げる。正直、それ以外の選択肢が見えない時期でもあります。私たちも同じでした。

現場を回しながら、機材の新規調達と新規案件獲得に必死で、気づけば時間も予算も、ほとんどが「目先を回すため」に消えていく。ドローン産業界の多くの事業者が通る道だと思いますし、むしろそのフェーズを真剣に走り切らないと次の景色は見えないのかもしれません。

ただ、ある時から、同じやり方の延長では越えられない違和感がはっきりしてきました。案件が増えるほど増えていくのは、売上だけではなく、判断の重さや現場の前提が揃っていない感覚でもあったからです。

立ち上げ期は機材調達と売上に追われて当然だった

今振り返っても、最初の5年に私がやってきたことは、決して特別な話ではありません。必要な機材を揃え、運用に必要なルールや手順を整えながら、まずは現場を成立させる。現実的に、ここを避けて通ることはできません。

むしろ、立ち上げ期にこのフェーズを軽視すると、どこかで必ず無理が出ます。案件は取れても、現場が回らない。要員の負荷が上がり続ける。判断の基準が属人的になり、運航の再現性が持てない。そうしたあとからじわじわと効いてくるボディーブローのような痛みは、この時期にすでに蒔かれていることが多いと感じています。

だから私たちは当時、目の前の現場と売上に集中しました。その時点での最善を尽くしていたし、それが最も合理的な選択だったとも思っています。

運航の違和感は積み上がっていった

ただ、案件が増えてくると、次第に別の違和感が見えてきます。飛行の難易度そのものではなく、判断の難しさ。関係者や環境条件が絡み合う中で、「飛ばせるかどうか」より「飛ばしていいかどうか」が重くなっていく感覚です。

さらに言えば、操縦技量だけでは埋まらないフレームワークが問われる場面が増えていきました。要員配置、ブリーフィングの濃度、情報共有の質、異常時の判断基準、現場の心理的安全性。こうした要素が揃っていないと、飛行が成立しても運航が安定しない。そんな気配を私は現場で何度も受け取りました。

この頃から、私の中に小さな違和感が生まれ始めました。そしてその違和感が、次第に「問い」へと形を変えていったのです。

  • その案件は、本当に適切な条件が揃っているのか。
  • その価格で、必要な安全確保措置を妥協せずに成立させられるのか。
  • そして何より、その判断が次の現場にも再現できる形になっているのか。

「断る判断」を基準化

この違和感が決定的に形になったのは、「できる・できない」ではなく、「今の体制と条件でやるべきかどうか」を真正面から問われる場面が増えていった頃でした。

正直に言えば、断る判断は簡単ではありません。売上や関係性の話はもちろん、現場の準備やメンバーの気持ちも絡みます。ただ、曖昧な理由で受け続けることは、結果的に現場の再現性を壊してしまう。判断の基準が揃わないまま案件が増えるほど、組織の負荷もリスクも少しずつ積み上がっていく。その現実を、私たちは現場経験の中で強く学びました。

このため私たちは、堂々と断るために、断る理由を「感覚」ではなく「基準」に変える必要があると考えるようになりました。

断ることは理想論ではなく運航能力の一部だった

誤解を恐れずに言うと、私たちが危険と判断される案件や格安案件をお断りするようになったのは、潔癖さや理想論のためではありません。むしろ逆で、現場が現実を突きつけてきたからです。

運航というものは、操縦技量だけで成立する世界ではありません。人員配置、ブリーフィング、空域や気象の変化への備え、異常時の判断基準、そしてチームの連携まで含めて初めて「運航が回る」状態になります。条件や価格の都合でそれらが削られるなら、飛行の成立条件そのものが揺らいでしまう。

何を受けるかだけでなく、何を受けないか。そこに判断の型があるかどうかが、組織の安全と持続性を左右する。この感覚は、10年の中で最もはっきりと形になった学びのひとつです。

後半5年で投資先が変わった理由

この頃から、私たちの投資の方向は少しずつ変わっていきました。機材を増やすことや新しい機体の情報を追うことよりも、「運航を成立させ続けるための力」をどう育てるかに意識が向いていったのです。

同じ場所でも、同じ形態でも、毎回条件は違います。関係者も目的も気象も違う。そうした変化の中で必要になるのは、機材の性能だけではなく、チームとしての共通ルールと判断の基準です。つまり、安全マネジメントやノンテクニカルスキルを軸に、現場を設計し直す力でした。

安全の話は、短期的には地味に見えるかもしれません。でも私たちは、現場を経験するほど、ここが弱いと運航が回し続けられないことを実感してきました。だから後半5年は、機材ではなく、安全マネジメントに関するノウハウに投資することが、最も合理的な選択になっていったのです。

現場の違和感を講習という形に

もうひとつ大きかったのは、学びを個人の経験で終わらせないという意識です。現場で得た気づきは、放っておけば属人的な知恵のまま消えていきます。だから私たちは、それを講習という形に翻訳し、水平展開できる状態にしていくことを選びました。

チームビルディングもCRMもSMSも応急手当も、私たちにとっては「売るためのメニュー」であることも確かですが、それ以上に現場の違和感を言語化した答えの集合です。全ては自社の運航業務で学んだ経験から、絶対に必要だと判断したテーマに絞って構築してきました。

まとめ

最初の5年は、機材調達と売上に向き合う時間でした。後半の5年は、現場で積み上がった違和感を見過ごさず、運航を回し続けるための判断と仕組みに投資する時間でした。この転換は、価値観の変更というより、現場から導かれた必然だったと思っています。

次回予告(第2回)

次回は、私たちが現場で感じてきた違和感が、なぜチームビルディングやCRM、SMS、そして応急手当という講習体系になっていったのかを、もう少し現場寄りの視点で整理してみたいと思います。

飛行は成立しているのに、運航がスッキリしない。その正体を言語化し、仕組みに落とし込むことは、ドローン産業界が成熟していく上で避けて通れないテーマだと私たちは考えています。

<strong>戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)</strong> ノンテクニカルスキル講習<span class="hljs-punctuation">(</span>CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習<span class="hljs-punctuation">)</span>を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 <span class="hljs-number">1</span><span class="hljs-punctuation">,</span><span class="hljs-number">000</span>時間超の運航経験<span class="hljs-punctuation">(</span>失敗含む<span class="hljs-punctuation">)</span>からSMSを構築。 <span class="hljs-number">2023</span>年より<span class="hljs-number">3</span>年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。 ▶ 講習・コンサルのお問い合わせ <a href="https://daiyaservice.com/contact">https<span class="hljs-punctuation">:</span><span class="hljs-comment">//daiyaservice.com/contact</span></a>

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