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【連載②】みんな本当は気づいている。ドローン運航と気合い頼みの終わり方

ヒヤリのたびに「運がよかった」で片づけていないか。
CRMが映し出す、人とチームの「壁」

この記事は、ヒヤリが起きるたびに

「いや〜危なかったね。でも結果オーライ」

と笑って終わらせてしまったあと、胸の奥が少しだけザワついている人に向けて書いています。

  • 「本当はあのとき、誰かが一言言えたはずだ」
  • 「ちゃんと共有していれば、あんな飛ばし方にはならなかったはずだ」

そう感じたことが一度でもあるなら、あなたはすでに CRM(Crew Resource Management) の入口に立っています。

ヒヤリの裏側で、本当は何が起きていたのか

ヒヤリが発生した瞬間だけを見ると、原因は機体や風や機能の話に見えます。

  • 突風が吹いた
  • 想定より電池の減りが早かった
  • 障害物の見落としがあった

でも、少しだけ引いて見てみると、こんなことが浮かび上がってくるはずです。

  • 本当は誰か一人、危ないと思っていた
  • でもその人は、声をかけなかった(かけられなかった)
  • 計画と違う動きになっていたのに、誰も「違う」と言えなかった

つまりヒヤリの裏側では、人と人の間で何かが壁になっていたことが多いのです。

「あのとき一言言えばよかった」が積み重なっていく

現場でよくあるのは、こんなシーンです。

  • 計画より少し攻めた位置に機体が行こうとしている
  • パイロットは集中していて、周りが少し見えていない
  • 補助者は「ちょっと危ないかも」と思う
  • でも、声をかけた瞬間に現場が止まりそうで、飲み込んでしまう

結果として、ヒヤリハットは起きる。けれども、ギリギリのところで事故にはならない。終わったあとで、心の中でこうつぶやく人が必ず出てきます。

「あのとき、やっぱり止めるたほうがよかったよな…」

この 「あのとき一言言えばよかった」 が、何度も何度も積み重なっていく。そして、誰も明確には言わないけれど、
チームのどこかに「小さな後悔の層」ができていきます。

まずは「自分」を知らないと始まらない

ここでいきなり「みんなもっと声を出そう」「チームワークだ」と言っても、現場はそう簡単には変わりません。なぜか。多くの現場で抜け落ちているのは、「自分がどういう反応をする人間なのか」を知らないまま、いきなりチームを語ろうとしていることだと感じています。

例えば、こんな自分の癖はないでしょうか。

  • 強い口調で否定されると、一気に黙り込んでしまう
  • 予定が押し始めると、「まあいいか」が増えやすい
  • 自分より経験がある人には、多少おかしくても何も言えなくなる
  • 「慎重すぎる」と言われた経験があり、それ以来、危ないと思っても飲み込む癖がついている

こういう「自分のスイッチ」を知らないまま、

「もっと言ってくれて良かったのに」
「遠慮せず止めてほしい」

と言われても、身体は動きません。

まずは、自分がどんなときに声を出せなくなるのか、どんな言い方だと素直に聞けるのかを知ることが、実はスタートラインです。

そして、「相手」の見え方を知ることで、会話の質が変わる

自分の癖が少し見えてくると、次に見えてくるのは 「相手の見え方」 です。

  • このパイロットは、集中すると視野が狭くなりやすい
  • この補助者は、周囲の変化には強いけれど、強い言い方をされると黙りやすい
  • このメンバーは、状況が悪化すると冗談でごまかしやすい

こうした「人の癖」は、性格の良し悪しではなく、ストレスや負荷がかかったときに出てくる“パターン” です。

自分のパターンと相手のパターンが分かると、こんな工夫ができるようになってきます。

  • 声をかけるときに、「言い方」を少し変える
  • 集中しすぎるパイロットには、意図的に「一拍置く声かけ」を入れる
  • 黙り込みがちなメンバーには、「どう思った?」と質問の形で振る

自分を知る → 相手を知る この順番を踏んでいくと、同じ一言でも、相手に届き方が変わります。「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれません。でも、ヒヤリハットの現場でそれを意識してやれているチームは、残念ながら多くありません。

CRMは、難しい理論ではなく「その一言を出しやすくする仕組み」

ここでようやく、CRMの話が出てきます。教科書的な説明をすると、

「ヒト・モノ・情報・時間など、限られたリソースをチームでうまく使うための考え方」

…みたいな話になるのですが、正直それだけだと、ピンとこない人も多いと思います。

現場目線で言い換えるなら、「あのとき一言言えなかった」を、少しずつ減らしていくためのやり方。これが、私の中でのCRMです。もっと噛み砕くと、CRMがやろうとしているのは、

  • 声をかけやすくするルール
  • 声をかけられたときに止まりやすい空気
  • お互いの「見えている世界」を重ね合わせる会話

を、チームの中に少しずつ植えていくことです。

具体的には、何が変わるのか

「やり方」としてのCRMは、そんなに大げさなものではありません。例えば、次のような小さな変化から始まります。

1. 事前に「止めてほしいポイント」を言葉にしておく

ブリーフィングのときに、

「今日はこことここのリスクが高い。少しでもおかしいと思ったら、遠慮なく「ストップ」って言ってください」

と、先に伝えておく。たったこれだけで、補助者が声をかけるハードルが一段下がります。

2. 危ないと感じたときの合図を決めておく

例えば、

  • 「ストップ」を、「絶対に止まってほしい合図」としてチームで共有する
  • それを聞いたら、まずは言い訳ではなく、一度動きを止めて状況を確認すると決めておく

その際に、

「自分は夢中になると人の声が入りにくくなるので、ストップと言われたら必ず一回手を止めるようにします」

と宣言しておくと、言う側も言われる側も、少し気持ちが楽になります。

3. 終わったあとに、ちゃんと人の話を振り返る

飛行後の振り返りで、

「今日はどこが一番ヒヤッとした?」
「あの場面、誰か何か言いたかったけど言えなかったところあった?」

と、機体や設定の話だけでなく、人のやり取りまで含めて振り返る。その上で、

「自分はあのとき、こう感じてた」
「自分は、こういう言われ方だと動きやすい」

という 自分の内側の話を少しずつ出していく。こういう地味な作業を重ねることで、「誰が悪いか」ではなく、「自分たちのパターンをどう整えるか」を考えるチームに近づいていきます。

それでも、最初はうまく回らない

ここまで書くと、「なるほど、じゃあ明日からやってみよう」と思ってくれる人もいるかもしれません。ただ、正直に言うと最初からきれいには回りません。期待を抱かせてしまったのであれば、ごめんなさい・・・。

  • 「ストップ」と言っても、誰かが無視してしまう
  • 声をかけた側が、後から「言わなきゃよかったかな」と不安になる
  • 振り返りの場が、「反省会」や「説教の時間」になってしまう

私たちも、自分たちの現場で散々失敗しました。それでも続けていくうちに、

  • ストップの一言で、本当に手が止まるようになってきた
  • 「あのとき止めてくれてよかった」と、後から素直に言える場面が増えてきた
  • 「さっきのやり取り、あれ危なかったよね」と、気軽に話せるようになってきた

そんな変化が、少しずつ見えてきました。自分を知り、相手を知り、その上で一言を交わせるようになる。
その積み重ねが、「人とチームの壁」が溶けていく感覚につながっていきます。

ヒヤリハットを「運がよかった」で終わらせるのか、「次の一手」に変えるのか

ヒヤリハットが起きたあと、選べる道はいつも二つしかありません。

  1. 「いや〜危なかったね」で終わらせて、運に預けるか
  2. その場面をチームで直視して、「次どうする?」を話し合うか

CRMは、「2. その場面をチームで直視して、「次どうする?」を話し合うか」を選び続けるための考え方と会話のやり方です。そしてその土台には、いつも

  • 自分はどういうときに声が出なくなるのか
  • 相手はどういうときに声を受け止めやすいのか

この二つがあります。これを知らないまま「チームワーク」と言っても、形だけのスローガンになってしまう。逆にここを押さえれば、小さな一言でも、現場の流れを安全側に変える力を持ち始めます。

この記事を読み終えても、まだ何も変えられていないとしても

たぶんこの記事を読み終えたからといって、明日から現場が劇的に変わるわけではないと思います。

  • 上司が聞いてくれないかもしれない
  • チームメンバーが「また始まった」と冷めた目で見るかもしれない
  • 「理想は分かるけどさ」と言われて、その場は流れてしまうかもしれない

それでも、もし心の中で

「ヒヤリを運任せのままにはしておきたくない」
「自分の癖と、相手の癖くらいは知っておきたい」

と感じたなら、それだけで、もう一歩前に進んでいます。

次のヒヤリが起きたとき、ほんの少しだけで構いません。

  • 「今の場面、自分はこう感じてたよ」
  • 「自分はこういうとき黙り込みやすいから、気づいたら声かけて」

その一言を、自分に嘘をつかずに出せるかどうか。CRMは、そうやって出した一言を、チームの中で受け止めやすくするための考え方だと、私は思っています。

次回:なぜドローン運航にSMSが必要なのか

次回は、「現場の頑張り」だけでは守り切れないラインの話をします。

  • なぜ、どこかで仕組みとして支える必要があるのか
  • SMSが、ドローン産業界にとってどういう意味を持つのか
  • 私たちが自社でSMSを作ろうとして、どんな壁にぶつかったのか

そんな話を、できるだけ現場目線で書いてみるつもりです。

もしこの記事が、あなたの心のどこかに引っかかってくれたなら、次回もお付き合いいただけると嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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