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【連載①】みんな本当は気づいている。ドローン運航と気合い頼みの終わり方

「この運航、いつかやらかす」。
ドローン産業界の多くが抱えている言えない不安

この記事は、「今のやり方、いつか事故るよな……」と心のどこかで感じながら、それでも現場を回し続けている人に向けて書いています。経営者でもいいし、運航責任者でもいい。パイロットでも、現場を支えている補助者でもいい。表では「大丈夫です」と言いながら、内心では「いや、大丈夫じゃない」と思っている人に届けば十分です。

本当は分かっている。「このままじゃ危ない」のに、止められない

ドローンの現場にいると、何度も同じ光景を見ます。

  • スケジュールが押して、準備が端折られていく
  • 誰かが疲れているのに「大丈夫っす」で終わる
  • ちょっとしたトラブルが出ても、「まあ今回は運がよかった」で流れる

その瞬間だけ切り取れば、確かに「たまたま何も起きなかった」のかもしれません。でも本当は、ほとんどの人がうすうす分かっているはずです。

「これ、いつかやらかすやつだよな」と。

私も、自分たちの現場で何度も同じ感覚を味わいました。日程は詰まっている。お客様もいる。「ここでやめます」と言う勇気を振り絞るのは、正直しんどい。ぶっちゃけ、見て見ぬふりをするほうがずっとラクなんです。

「気合いと経験」に乗せてしまえば、その日は回ってしまう

ドローン産業界には、まだまだ体育会系のノリが残っています。

  • 「今日は風が強いけど、まあいけるっしょ」
  • 「このくらいの距離なら、見える見える」
  • 「昨日も飛ばしたから大丈夫だよ」

そうやって、気合いと経験の上に運航を乗せてしまえば、その日はたいてい回ってしまいます。終わってみれば、「ほら、やっぱり大丈夫だったじゃん」と誰かが言う。

でもそれは、大丈夫だったのではなく、ただ運が良かっただけです。運がよかった日々が積み重なると、人間は勘違いを始めます。

「今までも大丈夫だったんだから、これからも大丈夫だろう」と。

この錯覚こそが、CRMもSMSも応急手当スキルも見向きもされない一番の理由かもしれません。

声を上げようとした人ほど、傷つきやすい

もうひとつ、大きな理由があります。それは、最初に危うさに気づく人ほど、孤立しやすいということです。現場で、

「今日はやめませんか」
「この体制だと危ないです」
「ちゃんと決めてから飛ばしましょう」

と言うのは、簡単ではありません。勇気がいりますし、空気が凍ることもあります。最悪の場合、こんな言葉が返ってくるかもしれません。

  • 「お前だけビビってるんじゃないの?」
  • 「そんなこと言ってたら仕事にならないよ」
  • 「理想は分かるけど、現場ってそうじゃないから」

そう言われ続けると、人は学びます。

「ああ、これは言わないほうが楽なんだ」と。

こうして「本当は危ないと思っている人」ほど静かになり、「何も感じていない人」の声だけが大きくなっていく。私はこの状態を、何度も目の前で見てきました。

私たちも、最初からちゃんとしていたわけじゃない

ここまで書いておいてなんですが、私たちが最初から立派な運航をしていたかと言うと、まったく逆です。

  • ヒヤリを記録する習慣なんてなかった
  • チームでの役割分担も曖昧だった
  • 応急手当はAEDの使い方も全然知らなかった

今振り返ると、「よくあの状態で回していたな」と冷や汗が出るレベルです。

転機になったのは、いくつかの現場で「これはギリギリだったな」と心の底から震えた瞬間が重なったことでした。

  • もう少し条件が悪かったら、確実に事故になっていたヒヤリ
  • ケガ人が出ていてもおかしくなかった場面
  • 運航後に「これ、説明つかないよね」と顔を見合わせた日

運が良かっただけ。その一言で済ませてしまうには、あまりにも重い出来事でした。

そこで、ようやく「自分たちなりに学ぶ」スイッチが入った

そこからようやく、私たちは本気で学び始めました。

  • 航空業界のCRMを、ドローン用にかみ砕いて試す
  • SMSという考え方を知り、「これをドローン運航にどう落とすか?」を考える
  • 応急手当を、ただの講習ではなく「運航の一部」として位置づける

もちろん、最初からうまく行ったわけではありません。現場とのギャップも大きかったし、「そこまでやらなくても」と言われることも一度や二度ではありません。

それでも、試行錯誤しながら続けていくうちに、少しずつ運航の手触りが変わってきたのは事実です。

  • 役割分担やコールアウトが整理され、チームでの会話が変わった
  • ヒヤリを共有することが、「責める時間」ではなく「守りを強くする時間」になってきた
  • 応急手当の訓練をしたことで、もしものときの不安の質が変わった

こうした変化を、私は現場の空気としてはっきり感じています。

それでも、振り向いてくれない人たちがいる

正直に言うと、ここからが本題です。自分たちの現場でCRMもSMSも応急手当も必要だと身をもって理解し、自分たちなりに学び、トライアンドエラーで社内展開してきた。

そのうえで講習という形にもして、「こうすれば安全側に寄せていける」という道筋をできる限りわかりやすく言語化してきたつもりです。

それでも・・・です。

  • 多くはまだ振り向いてくれない
  • 「すごいですね」「いつか受けたいです」で終わってしまう
  • 目の前の売上や実証実験のほうが、いつも優先されてしまう

何度もそういう場面を経験してきました。

「こんなに必要なことを、どうして見ようとしないんだろう?」

悔しさと虚しさと、少しの怒りと。いろいろな感情が、正直、今も混ざっています。

この記事を読んで「分かる」と感じたあなたへ

ここまで読んで、「いや、その気持ちめちゃくちゃ分かる」と心の中でうなずいている人がいるなら、その人こそ、この記事で一番会いたかった相手です。

  • 現場の危うさに気づいているのに、言えない
  • 言ったことはあるけれど、空気に負けてしまった
  • 自分なりに勉強を始めたけれど、周りに語れる人がいない

そんな人たちが、必ずどこかにいるはずだと思っています。今日からのこの連載は、そういう人たちに向けて書きます。次回以降は、少しずつ

  • なぜヒヤリを「運がよかった」で済ませてはいけないのか
  • チームの会話や関係性を整えるうえで、CRMがどんな役割を果たすのか
  • なぜドローン運航にSMSが必要なのか
  • 応急手当スキルを、どう運航の中に組み込んでいけるのか

という話に踏み込んでいきます。

でもその前に、今日はこれだけ覚えておいてもらえたら十分です。

「このままじゃいつかやらかす」と感じているあなたは、何も間違っていないし、ビビりすぎでもない。

むしろ、その感覚をなくしたときのほうが、よほど危ないと私は思っています。この連載をきっかけに、心の中で同じことを感じている人たちが、少しずつ、表に出てきてくれたら嬉しいです。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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