あなたがある企業の広報責任者だとします。フライトを委託したドローン事業者が、撮影中に墜落事故を発生させ、映像がSNSで拡散。翌日、株主や取引先からこんな問いが寄せられます。
「なぜ安全体制のない事業者に任せたのですか?」
「どのような基準で委託先を選んだのですか?」
ここで「価格が安かったから」とは口が裂けても言えません。発注者が本当に求められるのは、「安全体制を確認し、最善を尽くしていた」という説明です。そして、その説明の裏付けとなるのが、これから紹介する安全チェックリスト7項目です。
1. 運航管理の仕組み
質問例
- 飛行計画は誰が立て、誰が承認していますか?
- トラブル時、現場と後方支援の役割は分かれていますか?今すぐ緊急連絡体制を提示できますか?
解説
運航管理が属人的か、組織的かで安全度は大きく変わります。もし「現場任せ」なら、トラブル時に誰もサポートせず、対応の遅れが発注者のリスクになります。
NGシグナル:「その都度話し合って決めています」
責任の所在が曖昧な回答をする事業者は危険です。発注者としては「事前に仕組みが定められている」ことを確認し、記録に残すことが重要です。
2. 規程やルールの整備
質問例
- 点検・整備・リスク管理の規程はありますか?
- 実際に現場で使われている例を見せてもらえますか?
解説
規程やマニュアルがあるだけでは不十分です。現場で活用され、教育・訓練に落とし込まれているかどうかが肝心です。書面だけのルールは、事故後の説明時に「実態が伴っていなかった」と批判されます。
NGシグナル:「書類はありますが、普段はそこまで使っていません」
これは「形だけの安全管理」の証拠です。発注者は、ルールが生きているかを必ず確認する必要があります。
3. 点検・整備体制
質問例
- 機体・バッテリーの点検周期は?
- 点検記録を拝見できますか?
解説
点検記録がない事業者は、整備をしていない可能性が高いです。仮に墜落事故が起きた際、「点検を怠っていた」ことが明るみに出れば、発注者が選んだ責任を問われます。逆に記録があれば、発注者は「きちんと確認していた」と示すことができます。
NGシグナル:「ベテランの感覚で見ているので大丈夫です」「飛行前点検は行っているつもりです」
4. 操縦者の資格とチェック体制
質問例
- 操縦者は国家資格・民間資格を保有していますか?
- 複数人での相互チェック体制はありますか?
解説
資格は最低限の入口でしかありません。人は必ずミスをします。相互チェックがなければ、単純ミスがそのまま事故につながります。発注者としては「相互チェック体制」を条件に含めておくとよいでしょう。
NGシグナル:「有資格者が1つずつしっかりチェックを行っているので、相互チェックまでは不要です」
「資格や経験があるから安全」という思い込みは、発注者も聞いた瞬間に不安になるはず。このような回答は、資格さえあれば安全という誤解に基づいており、人的エラーを軽視している証拠です。安全は資格ではなく、仕組みと体制で担保されるものです。
5. 緊急時の対応力
質問例
- 墜落・事故時の初動マニュアルはありますか?
- 応急手当訓練を受けている人員はいますか?
解説
事故のニュースでは「対応が遅れた」「混乱した」という言葉が必ず報じられます。その時に矢面に立つのは発注者です。応急手当の訓練まで受けている事業者なら、「発注者は備えを重視していた」と世間に示せます。
NGシグナル:「いつも飛ばしている機体なので、事故はめったに起きない想定です」「何かあったら救急車呼ぶから大丈夫です」
「想定しない=準備しない」ことの怖さが直感的に伝わります。事故ゼロを願うのは当然ですが、起きたときの準備をないがしろにする姿勢は要注意です。
6. 安全に関する情報の説明力
質問例
- 過去の事故・不具合について説明できますか?
- 年次の安全報告を公開していますか?
解説
透明性がない事業者に委託していたと判明すれば、発注者も「情報公開を軽視した」と批判されます。逆に「説明可能な記録がある」ことは、発注者を守る盾となります。
NGシグナル:「事故は一度もありません」「安全報告までは国に求められていないので行っていません」
本当に事故ゼロのケースもありますが、「話せない」「隠している」可能性もあります。
7. 外部への説明や評価の実績
質問例
- 安全報告書を公開した実績は?
- 学会や団体での発表、共同研究の経験はありますか?
解説
外部に安全を示す取り組みがある事業者は、発注者にとって安心です。「社会に対して説明責任を果たしている事業者に任せた」と言えること自体が、発注者のリスク回避に直結します。
NGシグナル:「うちは外部に説明する必要はないと考えています」「依頼があれば出しますが、普段はやっていません」
「社会に説明する意識がない会社」と思われる、発注者にとっては最も怖いタイプです。
まとめ:保存して、打ち合わせに持参を
この7項目は、事業者の内部を暴くためのものではありません。発注者自身が社会的批判から守られるかどうかを確認するための基準です。
価格だけで選んだ結果、事故が起きれば批判を浴びるのは発注者。逆にこのリストを机の上に置き、発注前の段階で1問ずつ事前に確認していれば、万一の際に「最善を尽くした」と堂々と説明できます。ぜひこの記事を保存し、次回の発注打合せのときにプリントアウトして机に置いてください。それが、あなたの会社や自治体を守る最初の一歩になります。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。