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ドローン委託、「業者におまかせ」で本当に大丈夫?発注者が陥る5つの意外な落とし穴

はじめに

ドローンを活用した点検、調査、撮影は、今や多くの公的機関や企業にとって、業務効率化に不可欠な選択肢となりつつあります。しかし、その業務委託のプロセスには、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいます。

多くの組織では、価格と実績を基準に事業者を選定し、安全管理は「専門家である運航事業者の責任」という前提に立っています。しかし、その思い込みこそが、万が一の際に組織の信頼を根底から揺るがす事故やトラブルの温床となり得るのです。

本稿の目的は、ドローンの調達を「単なる業者への発注」から、「組織の評判と公共の安全を守るための戦略的リスク管理パートナーシップ」へと昇華させるための5つの重要な視点を提示することです。発注者が見落としがちな盲点を解き明かし、未来のトラブルを回避するだけでなく、組織としての説明責任を全うするための知見を提供します。

1. 「委託なので分かりません」は通用しない?発注者に問われる「説明責任」

ドローンの運航を外部に委託していたとしても、事故やトラブルが発生した際、近隣住民やメディアから最初に説明を求められるのは、多くの場合、発注者自身です。

このとき、単に「専門業者に任せているので」という姿勢は、もはや社会的に通用しません。

「委託しているので詳しいことは分かりません」という説明だけでは、発注者としての責任を果たしたとは見なされない場面も想定されます。

これは、ドローンのような先進技術の社会実装における、責任の所在に関する根本的な変化を示唆しています。世論や規制当局は、技術を直接操作する「オペレーター」だけでなく、その活用を決定し便益を得る「ユーザー(発注者)」に対しても、安全な運用を担保する共同責任者としての役割を期待しているのです。発注者は受け身の購入者から脱却し、運航の安全性について主体的に検証する当事者であるという認識が、現代のリスク管理の第一歩となります。

2. 「国家資格があるから安心」の落とし穴

「パイロットが国家資格を保有しているから万全だ」——これは、発注者が陥りやすい最も典型的かつ危険な思考停止です。操縦者の資格は重要な要素ですが、それだけで運航全体の安全が保証されるわけではありません。

真のリスク管理とは、個人の「資格」を確認することから、組織の「安全システム」を検証することへと視点を引き上げることです。個人の技能だけでは防げない事故を防ぐのは、組織に根付いた安全文化とプロセスに他なりません。具体的には、以下のシステムが機能しているか、書面で確認することが不可欠です。

• 運航体制図を要求し、各役割を定義させているか
操縦者、安全監視者、現場責任者といった体制が明記され、それぞれの権限と責任が明確になっているかを確認します。

• 組織的な安全ルールと手順書の提出を求めているか
その場しのぎの対応ではなく、飛行前後のチェックリスト、ヒヤリハット報告制度など、安全を維持するための具体的な仕組みが文書化され、運用されていることを検証します。

• 賠償責任保険の補償範囲を書面で精査しているか
補償額や免責金額はもちろん、「どのような場合に保険が適用されないか」という除外項目まで、口頭ではなく書面で正確に把握します。

個人の資格の有無で思考を止めるのではなく、こうした組織的な安全管理システムを検証することこそ、壊滅的な失敗を防ぐための唯一の本質的なアプローチです。

3. 高リスクな運航なのに「救護体制」を確認したことがない

発注者が見落としている、具体的かつ致命的になりうる盲点の一つが、運航事業者の「応急手当と緊急救護体制」の確認です。特に、以下のような高リスク業務では、この確認は非交渉領域の要件と認識すべきです。

• レベル3.5・レベル4相当の運航
これには、パイロットの目が届かない市街地などの上空を自動航行するといった、地上への影響が最も懸念される高度な運航が含まれます。

• 重量物の運搬

• 第三者上空を含む運航

これらの業務では、万が一の際に負傷者が発生する可能性を具体的に想定しなければなりません。したがって発注者は、事業者側の「応行手当講習の受講状況」や、緊急時の「救護体制」について、契約前に具体的に確認する義務があります。

「万が一、人が負傷した場合の体制はどうなっていますか?」——この一つの戦略的な質問が、関係者全員のリスク認識を劇的に変え、最悪の事態に備えた実効性のある計画を担保するのです。

4. いざという時、誰がドローンを「止められる」か決まっていますか?

運航中に予期せぬ危険(例えば、人の急な立ち入りや天候の急変)を察知した際、誰が飛行を緊急停止させる権限を持っているでしょうか?

このルールが事前に明確化されていない現場では、「権限の拡散」として知られる、典型的なリスク管理の失敗が発生します。発注者、現場監督者、操縦者の誰もが「誰か他の人が判断するだろう」と思い込み、誰も行動を起こさないまま危機が進行するのです。これは「傍観者効果」とも呼ばれる、極めて危険なヒューマンファクターです。

この重大なリスクに対する、最もシンプルかつコストのかからない対策は、飛行開始前に、発注者、運航事業者、現場責任者の間で、誰が最終的な「中止権限」を持つのか、そしてその際の連絡系統はどうするのかを明確に合意しておくことです。この簡単な事前確認は、現場にいる全員が危険に対して躊躇なく行動する力を与える、最も効果的な安全対策の一つです。

5. 事故後の「メディア対応」、役割分担はできていますか?

安全計画は、事故の未然防止で完結しません。万が一事故が発生した後の対応、特にクライシスマネジメントと情報統制(ナラティブ・コントロール)まで含めて初めて完成します。

事前の取り決めがなければ、事故発生後の現場は情報と責任の真空地帯と化します。住民からの問い合わせには誰が答えるのか?メディアの取材には誰が主体となって対応するのか?この混乱は、誤った情報の拡散を招き、発注者と事業者の双方にとって、長期間にわたる回復不能なレピュテーションダメージをもたらします。

これは単なるコミュニケーションプランではなく、有事における主導権の確保です。契約前に、事業者と少なくとも以下の点について、危機管理の基本方針を共有しておくべきです。

  • • 住民や関係者からの問い合わせ窓口はどちらが担うか
  • • メディア対応の主体はどちらか、あるいは共同で行うか
  • • 外部に発信する情報の事実関係を、両者でいかに迅速に確認・合意するか

この基本合意が、混乱の中で組織としての責任ある統一された対応を可能にし、社会からの信頼を維持し、ひいてはドローン活用プログラムそのものの長期的な存続を守る防波堤となります。

結論

ドローン業務の委託は、単なる「発注」と「受注」の取引ではありません。それは、発注者がリスク管理に主体的に関与することで成立する「共同リスク管理フレームワーク」の構築に他なりません。

今回ご紹介した5つのチェックポイントは、事業者に対する過度な要求ではなく、むしろ、コンプライアンス遵守という受け身の姿勢から脱却し、レジリエンス(強靭性)を重視した調達戦略へと移行するための重要な対話のきっかけです。これらの視点を取り入れることで、より安全で信頼性の高いパートナーシップを築くことができるはずです。

<strong>戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)</strong> ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。 操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。 千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。

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