ドローンが広がる現場で見えてきた空白
いまやドローンは、都市部の点検作業から山間部や離島での物資輸送まで、幅広い現場で使われるようとしています。でもその一方で、墜落や事故が起きたときの「最初の対応」が、ほとんど議論されていないことをご存じでしょうか。
総務省の統計によれば、救急車が現場に到着するまでの時間は全国平均で約9分。山間部や離島では30分以上かかるケースもあるといいます。このタイムラグの間に、現場にいる人間が応急手当をできるかどうかが、生死を分けることになります。
他の交通分野では「法律」と「教育制度」がセットになっている
航空機
航空法や国際基準で、客室乗務員(保安要員)には負傷者救護の義務が定められています。さらに制度として、応急手当訓練(心肺蘇生・AED・止血など)の受講が必須。毎年リカレント教育まで義務づけられています。
自動車
道路交通法で、事故時の負傷者救護義務が明文化されています。そして制度として、普通免許の取得時に「応急救護処置講習(実技)」合格が必須。訓練を受けない限り免許は交付されません。
鉄道
鉄道営業法や関連規程で、運転士や乗務員には救護措置の義務があります。あわせて各鉄道事業者では、応急手当教育を行う仕組みが標準化され、定期的に訓練が実施されています。
このように、「法律で義務化」+「教育制度で仕組み化」が揃っているのが他分野の常識です。
ドローンだけが「救護義務はあるのに教育制度がない」
一方でドローンはどうでしょうか。航空法第132条の2では、「人に危害を及ぼした場合、必要な救護措置を講じなければならない」と明記されています。つまり救護義務は法律で定められているのです。
ところが、その義務を果たすための教育制度は存在しない。登録講習機関において応急手当教育は必須ではなく、多くの現場従事者が訓練を受けないまま業務に従事しているのが実情です。「救護義務はあるのに教育がない」この制度的な矛盾こそ、いま埋めるべき空白です。
ドローンのほうがリスクが高い場面も
「航空機には人が乗っているけど、ドローンには乗っていないから大丈夫じゃないか?」と思うかもしれません。
でも、実際はその逆です。
- 航空機は安全設計や運航体制が徹底され、墜落の可能性は極めて低い。
- ドローンは小型で便利ですが、墜落の可能性自体は航空機よりはるかに高い。
しかも、レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が解禁される中、万一墜落すれば直下にいる第三者に重大な被害が及びます。「人が乗らないからリスクが小さい」のではなく、人に当たるリスクを直視すべきではないのでしょうか?
なぜ応急手当教育を義務化すべきか
救護義務との整合性
航空法で救護措置は義務化されている。ならば教育が制度化されていないのは不自然。
社会的信頼の担保
「事故が起きても現場で対応できる」ことが示せれば、産業全体への信頼性が高まる。
国際水準との整合
航空機・自動車・鉄道に比べ、ドローンだけ教育制度がないのは国際的にもアンバランス。
経済合理性
事故対応の初動が早ければ、医療費や賠償など社会コストを大きく減らせる
どう実現するか(具体的な提案)
- 登録講習機関での応急手当教育を必須化(胸骨圧迫・AED・止血など)
- カリキュラムの標準化(自動車教習所の救護講習のように国交省告示で)
- 応急手当資機材の標準装備化(止血具・冷却パック等を現場に常備)
- 講師・認定制度の整備(教育の質を確保する仕組み)
- 業界全体への周知・啓発
終わりに
「事故は起きない」と思って何も準備しないことこそ、最大のリスクです。救護義務がある以上、教育と装備を整えるのは当然のこと。応急手当教育の義務化は、ドローン産業界が「社会に信頼される存在」になるための最低条件です。制度の空白を埋めることが、これからの安全文化づくりの第一歩だと、私は強く感じています。

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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