空自×JUIDAの災害協定は前進。でも「ボランティア頼み」で本当に続くのか?
2025年12月、航空自衛隊の部隊とJUIDAが「災害時応援に関する協定」を締結した、という報道がありました。災害時のドローン活用を仕組みとして前に進める動きであり、ここは率直に歓迎したいと思います。
一方で、同じ報道の中に出てくる「ボランティア防災チーム」という言葉には、どうしても引っかかりが残りました。 DroneTribune (ドローントリビューン)
災害対応は、人の善意だけで回してはいけない。ドローン産業界に身を置き、実際に要請やスタンバイを受けてきた立場として、今日はその理由を、できるだけ誤解の少ない言葉で書いてみます。
協定締結そのものは、間違いなく前進
今回の協定は、笠取山分屯基地第一警戒隊とJUIDAが、2025年12月5日に締結したものです。災害時に基地が孤立する可能性がある地理条件も踏まえ、物資輸送や情報収集などでドローンの応援を受けられる体制を整える狙いが語られています。
また、平時から合同訓練を行う方針(年2〜3回程度)も示されており、紙の協定で終わらせず実効性を高めようとしている点はめちゃくちゃ重要です。
災害現場は「飛ばせる」より「飛ばしていい」を決めきれるか
災害時の現場は、ドローンの操縦技量だけでは勝負になりません。むしろ重要なのは、
- Go(実施)
- 条件付きGo(条件を満たしたら実施)
- No-Go(実施しない)
この判断を、短時間で、ぶれずにやり切ることです。
たとえば災害時には、国交省が「緊急用務空域」を指定し、ドローンは原則飛行禁止になります。しかも、他の空域の許可があっても緊急用務空域は飛べない、と明確に注意書きされています。
つまり「許可はあるから行けるよね?」ではなく、「いま飛ばしていい条件がそろっているか」を、根拠付きで判断しなければいけない。
ここが曖昧なまま現場に入ると、最悪の場合、救援の邪魔をしたり、別の事故を呼び込んだりします。現場は善意の集合では回りません。判断の質が、そのまま安全と信頼に直結します。
ボランティアは募るものではない
DroneTribuneの記事では、JUIDA-D³が「ボランティア防災チーム」と表現されています。 DroneTribune (ドローントリビューン)
この言葉が示す運用実態の詳細は、外からは見えづらい部分もあります。ですが、少なくとも「ボランティアで災害対応を回す」という印象を社会に与えやすい。なので、ここだけは、言い方を選ばずにはっきりと言います。
ボランティアは自ら手を挙げるものであって、募るものではない。
そして、ドローンに限らず災害対応全般に言えることですが、災害対応をボランティアで賄おうとする社会の空気にも、私は異議があります。最低限、交通費・宿泊費・消耗品・保険・機材の損耗などの実費くらいは、公的機関や関係機関が負担する設計にしないと、結局は続かなくなります。「続かない支援」は、いちばん残酷です。必要なときに呼べない仕組みは、仕組みとして未完成だからです。
※なお、D³が実運用としてどこまで実費補填や要件を整備しているかは、私の立場からは未確認です。ここでは、報道で「ボランティア防災チーム」と表現されることが、社会に与えうる印象とリスクに絞って論じます。
「誰でも参加」ではなく、「参加条件」を決めないと危うい
もう一つ、現場を知っている人ほど言いにくいことがあります。運航規程や安全手順、連絡統制のルールがないまま、災害現場に参加するべきではないということ。
もちろん、最初から完璧な会社などありません。ですが、少なくとも次のような最低限の土台がないと、現場で判断が崩れます。
- 指揮命令系統(誰が最終判断者か)
- Go/条件付きGo/No-Goの判断基準
- 航空・消防・警察・自治体との連絡手順
- リスクが上がったときに「撤収」を決める基準
- 記録(何を根拠にどう判断したか)と、振り返り
これは立派な書類を作ろうという話ではありません。災害時は情報が足りない。時間がない。人も足りない。だからこそ、平時に決めておくべきことがある、というだけです。
二次災害を起こさないのは大前提。だから応急手当スキルも必要になる
災害現場で一番やってはいけないのは、二次災害を増やすことです。赤十字も「二次事故(災害)の危険があるときは、その危険を排除してから手当を開始する」と明確にしています。
そして、現場は「飛行」だけして帰れる場所ではありません。倒壊、落下物、転倒、感電、刃物・金属片、そして出血。起こり得ることは、想像以上に多い。たとえば止血ひとつ取っても、直接圧迫止血・関節圧迫止血や、感染予防のために手袋・袋で手を覆うことが必要になります。
「操縦者が応急手当までやるの?」という話ではありません。チームとして最低限の応急手当スキルがあるかは、災害現場に入る以上、切り離せない前提だと思っています。
私たちは、判断のためのルールを既にまとめている
株式会社ダイヤサービスでは、災害現場で最も重要になる「Go/条件付きGo/No-Go」の判断を行うためのルールを、すでにまとめています。要請があったときに、勢いだけで動かない。現場を増やして良いことより、増やしてはいけない状況を見落とさない。そういう発想で、準備を積み重ねてきました。
九州豪雨、草津白根山、秋田豪雨、能登地震、能登豪雨。私たちは、出動要請またはスタンバイ要請を受け、現場の現実と向き合ってきました。だからこそ言えるのは、「ドローンを出す」より先に、「出していい条件」を決める仕組みが必要だ、ということです。
もし自治体・企業・関連機関の皆さまで、
- 災害時に「使える」ドローン体制を作りたい
- 協定を結ぶだけでなく、訓練や判断基準まで落とし込みたい
- 現場で二次災害を増やさないための運用・教育まで設計したい
そういったテーマがあるなら、ぜひ情報交換させてください。災害対応は「やる気」ではなく、「続く仕組み」で強くなると、私たちは考えています。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。