「現場が頑張ればなんとかなる」の限界。
ドローン運航にSMSが必要な理由
この記事は、
「うちの現場はみんな真面目だし、ちゃんとしてる」
「多少のヒヤリはあるけど、まだ大事故は出ていない」
そう思いつつも、どこかで
「このままずっと同じやり方で続けて大丈夫か?」
と引っかかりを感じている人に向けて書いています。
前回までは、ヒヤリの裏側で起きている「人とチームの詰まり」や、自分を知る → 相手を知ることで一言が出やすくなる話を書きました。
今回はそこから一歩進んで、
「それでも、現場の頑張りだけでは守り切れないラインがある」
という話を、SMS(安全マネジメントシステム)という言葉を絡めながら、できるだけ現場目線で書いてみたいと思います。
現場の頑張りがたまたま噛み合っている日と、そうじゃない日
ドローン運航を続けていると、
「今日は現場がうまく回ったな」
という日と、
「一応事故にはならなかったけど、かなり無理していたな…」
という日があると思います。
でも、その違いをちゃんと言葉にできている現場は、正直そこまで多くない気がしています。
- たまたま疲れていない日だった
- たまたま経験のあるメンバーが揃っていた
- たまたま天気や風が味方してくれた
こういう「たまたま」がいくつか重なれば、多少雑な進め方をしても、何も起きないことがあります。その日だけ切り取れば、現場は「うまく回った」ように見えます。
でももし、同じやり方を
- もっと忙しい日
- もっと条件の悪い日
- もっと経験の浅いメンバーで挑む日
にそのまま持ち込んだらどうなるか。そこで初めて、「現場の頑張りだけでは守り切れないライン」が顔を出します。
「ちゃんとやってます」と言いながら、実は運に頼っていないか
何かあったとき、説明責任を問われるのは、いつも現場です。
「なぜ、その判断をしたのか」
「どこまでリスクを見ていたのか」
「やるべきことはやっていたのか」
この問いに対して、
- 「ちゃんとやっていました」
- 「気を付けていました」
- 「みんなで注意しながらやっていました」
……としか答えられないとしたら、それはほとんど 「運に頼っていました」と言っているのとあまり変わりません。
本当は、
- どの基準でGO/NO-GOを決めていたのか
- どの手順を踏んでリスクを確認していたのか
- 何かあったときに、どうやって立て直すつもりだったのか
ここまでが 「決めてある/記録が残っている」 状態で初めて、「やるべきことはやっていました」と胸を張って言えるのだと思います。
現場の頑張りは、“最後の守り”であってほしい
誤解されたくないのですが、私は「現場の頑張り」を否定したいわけではありません。むしろ、最後の瞬間に踏ん張るのは、いつだって人です。
- 規程がどうであれ、危ないと感じて止めるのは人
- マニュアルにない状況で最善を選ぶのも人
- 相手の表情から「今日は無理させないほうがいい」と察するのも人
ただ、その「人の頑張り」が、いつもフルパワーで発揮されているわけではない、ということも、現場にいる人ほど分かっているはずです。
- 寝不足の日
- 現場が連続している週
- プライベートでも悩みを抱えているタイミング
同じ人でも、コンディションによって判断の質は変わります。だから本来、現場の頑張りは
「すべてを支える土台」ではなく、「最後の一線を守るための力」
であってほしい。その手前を支えるために必要なのが、SMSという考え方だと、私は思っています。
SMSを、できるだけシンプルに言い換えると
SMS(Safety Management System)という言葉は、堅くて、どこかお役所っぽくて、「また書類が増えるやつか」と構えてしまうかもしれません。
でも、現場側の感覚で言い換えるなら、
「どう決めるか」「どこまでやるか」「何かあったらどう戻すか」をあらかじめ決めておく“土台”
くらいのものだと捉えています。
もっと砕いて言うと、
- 「その日飛ばす/飛ばさない」をどう決めるのか
- 「想定外」が起きたとき、どこまで粘って、どこでやめるのか
- ヒヤリや不具合があったとき、どうやって記録し、次に活かすのか
この3つを「人の感覚」だけに任せず、チームで共有できる形にしておくこと。それが私の中でのSMSです。
私たちも最初は、「書類を増やしたくない側」だった
偉そうなことを言っていますが、私たちも最初からSMSに前向きだったわけではありません。
- これ以上書類を増やしてどうする
- 現場の負担が増えるだけじゃないか
- そんなことより機体やオペレーションの精度を上げるほうが先じゃないか
正直、最初はこう思っていました。それでも、いくつかのヒヤリやギリギリの現場を経験する中で、徐々に考え方が変わっていきました。
「これは、現場の頑張りの話じゃなくて、そもそも会社として、どこまで責任を持つかの話なんだな」と。
そこから少しずつ、
- GO/NO-GOの判断基準を文字にする
- リスク評価の考え方を、紙やフォームに落とす
- インシデントやヒヤリを記録し、定期的に振り返る場を作る
といったことを、自分たちなりのルールで枠組みの作成を始めていきました。
仕組みができてくると、「現場の空気」が変わり始めた
少しずつですが、仕組みとしてのSMSが整ってくると、現場の空気にも変化が出てきました。
- 「今日はここが引っかかるので、やめましょう」と言いやすくなった
- 「この条件ならうちはやらない」というラインを、会社として示せるようになった
- ヒヤリを報告しても、「文句を言われる日」ではなく、「一緒に考える日」になってきた
特に大きかったのは、
「やる/やらない」「続ける/やめる」の判断を、一人のパイロットや担当者に丸投げしなくてよくなったこと
です。判断の根拠が、
- そのときの気分
- 上司の機嫌
- お客様の圧力
ではなく、
- 事前に決めた基準
- 過去の事例やデータ
- チームで合意したルール
に移っていくことで、現場の心理的な負担は明らかに変わりました。
SMSは、「パイロットの盾」であってほしい
ドローンの現場では、何かあったとき、真っ先に名前が挙がるのはたいていパイロットです。
「なぜあの判断をしたのか」
「止めなかったのか」
「危険だと思わなかったのか」
もちろん、現場の判断が重要であることに変わりはありません。ただ、私はSMSを
「パイロットに責任を押しつけるための仕組み」ではなく、「パイロットを守るための盾」
として整えたいと思っています。
- 会社としてどこまでリスクを取るのか
- どんな条件なら引き返すのか
- 何かあったとき、どう説明し、どう是正するのか
これを、「パイロットが勝手に決めたこと」ではなく、「組織として決めたこと」として持てるかどうか。その違いは、現場の安心感に直結します。
「今もし大きなインシデントが起きたら」と、自分に問うてみる
ここまで読んでいただいたついでに、一つだけ、自分の現場に問いを投げてみてほしいことがあります。
今、もし大きなインシデントが起きたとして・・・
私たちは「ここまでやっていました」と言葉と記録でどこまで示せるだろうか?
- 口頭の説明だけに頼っていないか
- 「気を付けています」「注意しています」で止まっていないか
- 基準やルールが、人ではなく紙やデータの形でも残っているか
この問いに対して、少しでも不安を感じるなら、それはもう立派なスタート地点だと思います。
SMSは、一気に完璧な仕組みを作る話ではありません。
- 決めていなかったポイントを、一つずつ決める
- 曖昧だったラインを、少しずつ言葉にする
- 現場で起きたことを、紙一枚でもいいから残していく
そうやって、「現場の頑張り」だけに乗せていたリスクを、少しずつ「仕組みの土台」に移していくこと。その積み重ねが、私の中でのSMSです。
次回:それでも何かが起きたとき、どう立ち向かうのか
ここまで書いてきた話は、どちらかというと「起こさないための守り」の話でした。でも、どれだけ気をつけても、人が関わる限り、ゼロにはできないものがあります。それが、ケガや体調不良、突然のアクシデントです。
次回は、
- 「起こさない」だけでは守り切れないライン
- 応急手当スキルを運航の一部として組み込むということ
- 現場の空気を変える“対応力”の話
について書いてみたいと思っています。
「起きてしまったときに、どう動くかまで含めて運航だよね」
そう感じている人に、少しでも届けば嬉しいです。

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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