ドローンの運航現場で、私たちは少し変わった取り組みをしています。それは「誰が・いつ・何を言うか」をスクリプト化していること。いわば台本のように、言い回しやタイミングまで決めてあるのです。
「そこまでやる必要があるの?」と驚かれることも多いです。でも私たちは、それが安全を守る上で欠かせない仕組みだと考えています。ここでは、その理由を少しだけご紹介したいと思います。
(1) 再現性を守るため
ドローン運航の現場は、いつも同じ人間が集まれるとは限りません。現場ごとにメンバーが変わることもあるし、役割を交代する場面もあります。もし言い回しや伝える順序が人によってバラバラだったら、同じ内容でも解釈が揺らぎ、結果的に安全の品質に差が出てしまいます。
だから私たちは、誰が担当しても同じ手順・同じ言葉でやり取りできるようにしました。
「属人化をなくす」=「安全の水準を均一化する」。
それが、再現性にこだわる理由です。安全は一人のベテランの経験に依存するものではなく、組織として「いつでも同じ水準を再現できること」で初めて担保される。そう考えています。
(2) 言い間違い・聞き間違いを防ぐため
現場でのやり取りは、想像以上に緊張感があります。風が強くなれば判断を急がねばならないし、複数人が同時に確認することもある。そんな中で「えーっと」「たぶん」「そんな感じです」という曖昧さが混じれば、伝わるべきことが伝わらなくなります。
このため、私たちはフリートークをやめて、定型フレーズを使うようにしました。同じ言い方を繰り返すことで、言い間違いも、聞き間違いも減らせるからです。
無線が少し途切れても、「このフレーズならこう聞こえるはず」という共通理解がある。これは実際に運用してみると、とても大きな安心につながります。
(3) 来る将来の遠隔運航に備えるため
既に当社では一部運航業務において、将来を見据えてOCC (運航管理者)が事務所から対応することがあります。実は顔が見えないだけで意思疎通は大きく低下します。これを最小限に抑えるためにも、決まったフレーズを使う取り組みを行っています。
航空の安全文化をドローンに持ち込む
航空の世界では、無線での言い方は厳格に決められています。ICAOの標準では「From → To → 内容」、FAAの実務では「To → From → 内容」。いずれも長い歴史の中で事故を防ぐために磨かれてきた合理的な手順です。
そのうえで私たちは、「まず内容を正しく伝えることが最優先」と考えました。だからあえて、「To → 内容 → From」 という形を採用しています。これは正式な国際標準ではありません。けれどもドローン運航の現場にとっては、最も合理的で誤解が少ない形だと確信しています。
少しだけ例を紹介します。
P1 リクエスト、ビフォー・フライト・チェック OCC
→P1(パイロット)へ、離陸前の点検をお願いします。OCCより。All member マニュアル、オーバーライド P1
→全員へ、手動介入しました。P1より。All member BVLOS P1
→全員へ、目視外となりました。P1より。
安全文化をただ真似するのではなく、自分たちの現場に最適化して取り入れる。その姿勢こそが、私たちが守りたい安全文化なのです。
どうしてここまでやるのか
一度の聞き間違い、一度の思い込みが、取り返しのつかない事故につながります。ドローンは有人機に比べれば小さくても、落ちれば人を傷つけるかもしれないし、社会の信頼を一瞬で失うことだってある。
だから、人が話す言葉さえも仕組みに組み込む必要があると私たちは考えています。
「そんなことまで?」と思われるかもしれません。でも、そこに妥協してはいけない。安全を文化として根付かせるには、細部にまでこだわる姿勢が欠かせないのです。
まとめ
私たちは、この取り組みを「特別なこと」とは思っていません。むしろ「これが当たり前になるべきだ」と信じています。ドローン産業界における本物の安全は、一つひとつの現場の地道な仕組みづくりから始まります。
「どうしてそこまでやるの?」と問われたら、私たちはこう答えます。
安全に近道はないからです。
おまけ
スクリプトの一部のみとなりますが、特別に公開いたします。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。