ドローン産業界では長らく「操縦技量中心」の議論ばかりが目立ってきました。資格制度も講習も、基本的には「いかに操縦できるか」を基準に組み立てられています。その一方で、航空会社や鉄道、医療といった他の安全産業では常識となっている「SMS(Safety Management System/安全管理システム)」は、これまでほとんど注目されてきませんでした。
しかし、いよいよその流れが大きく変わろうとしています。2025年8月7日、アメリカ連邦航空局(FAA)が発表したBVLOS(Beyond Visual Line of Sight=目視外飛行)規制案において、高リスク運航にはSMSの導入が義務付けられる方針が打ち出されました。
FAAの新提案:BVLOSにSMS必須
今回のNPRM(Notice of Proposed Rulemaking)では、BVLOS運航を2つの制度に分けています。
- Operating Permit(許可):小規模・低リスクな運航向け。SMSは要求されていません。
- Operating Certificate(証明書):大型機・多数機・人の上空といった高リスク運航向け。ここでは14 CFR Part 5(航空会社に義務付けられているSMS規則)準拠のSMSが必須と明記されています。
つまり、ドローンも航空会社と同じ安全マネジメントを持たなければ、高リスク運航は認めないというのがFAAの方針です。これまで「ドローンは人が乗るわけではないから航空分野ほど厳しい制限は課されないだろう」と考えていた人たちにとって、これは大きな転換点です。むしろ「既存の航空安全の仕組みに追いつけ」という強いメッセージが込められているのではないでしょうか?
日本の現状:SMSは「存在しない扱い」「なにそれ?な扱い」
一方、日本の制度はどうでしょうか。
国家資格(操縦ライセンス)は整備され、飛行許可承認の制度もあります。しかし、SMSについては一切触れられていません。安全管理は「各社の工夫」に委ねられており、業界全体としては「技能試験に受かれば十分」という空気が圧倒的です。
現実には、運航中のリスクは操縦技量だけでコントロールできるものではありません。ヒューマンエラー、チーム間のコミュニケーション不足、現場の緊張感の欠如など、「人と組織」に起因する事故要因は数え切れないほどあります。SMSはそうしたリスクを仕組みで管理し、再発防止と継続的改善を回すフレームワークです。つまり、日本のドローン制度は「操縦」だけを見ており、世界標準における「安全マネジメント」という視点が欠けているのです。
航空会社OBがそのまま語れるとは限らない
ここで誤解してはいけないのは、「航空会社や航空会社OBがSMSを語れば、そのままドローンに通用する」わけではないという点です。もちろん、航空会社は世界で最もSMSを徹底している組織の一つであり、当社も尊敬をしている存在です。ICAO基準やFAA Part 5に基づいた制度運用、監査、継続改善の知見は豊富です。しかし、ドローン産業界の現場は、航空会社とは条件が根本的に異なります。一例を挙げると、
- 小規模事業者が多い:運航チームは数名、時には一人でOCC・PF・補助まで兼務。
- 技術環境の違い:通信の不安定さ、機体メーカー依存、整備体制の未成熟さ。
- 運航規模のギャップ:毎日数百便を飛ばすエアラインと、数件の案件をこなす中小事業者では、リスク管理の回し方がまるで違う。
航空会社式の「理論」を知っていても、それを ドローンの運航現場に翻訳できるか は全く別問題なのです。
そしてここにこそ、私たちの独自性があります。私たちは航空会社水準の安全文化を理解したうえで、実際にドローンの現場で運用し、試行錯誤を重ねてきました。その結果として、ドローン産業界にフィットする形のSMSとノンテクニカルスキル体系を作り上げてきたのです。
当社の取り組み:SMSを土台にしたNTS体系
当社では、この「見えないギャップ」に早くから注目してきました。私たちが掲げているのは、ノンテクニカルスキル(NTS) を柱とした教育体系です。
- チーム・ビルディング講習
- CRM(基礎編/実践編)講習
- 応急手当講習
これらはすべて「人と人との協力によって安全をつくる力」を養うものです。そして、その土台に位置付けているのがSMSです。SMSによって組織としての安全文化が根付き、その上にチームワークや判断力、救護対応といったスキルが積み上がっていく。この「土台と柱」の関係を、私たちは強調してきました。

他社が「操縦技量さえあればいい」と考えている間に、私たちは航空会社レベルのSMSをモデルに、ドローンの運航現場に対応できるよう試行錯誤を重ね、自社の安全憲章・行動指針・規程群・FS-DOD(運航管理&チェックリストシステム)といった仕組みを整備し、講習として外部にも提供してきました。
やっと日の目を見る時が来た
正直に言えば、日本ではSMS講習はこれまでほとんど注目されてきませんでした。「そんなものは必要ない」「事故は起きないと思っている」といった空気の中で、私たちは孤軍奮闘を続けてきました。
しかし、FAAが示した方向性は明確です。
「ドローンにもSMSが必須になる」。
これは時間の問題で日本にも必ず波及します。国際的な商用BVLOS運航を視野に入れるのであれば、SMSなしで生き残ることはできません。私たちはその未来を信じて、誰よりも先に準備を進めてきました。だからこそ今、こう言えます。「やっと、日の目を見る時が来た。」
最後に
今後、日本の制度や商習慣がどう変わろうとも、SMSに本気で取り組むかどうかが、事業の生死を分けます。操縦技量だけでは事故は防げない。安全を仕組みでつくる時代に入ったのです。
当社では、ドローン産業界で唯一のSMS講習を体系的に提供しています。これから本格化する国際的な流れに備えるためにも、ぜひ一度、「安全を仕組みでつくる」体験をしてみてください。

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。