ドローン配送や目視外飛行、いわゆるBVLOS運航の社会実装は、世界各国で重要なテーマになっています。
一方で、技術が進み、制度が整い始めても、すぐに大規模な事業展開が進むわけではありません。そこには、航空法上の許可だけでは解決できない、別の課題があります。
今回、Drone Industry Insightsに掲載された「When the Rules Run Out: What Recent Developments Reveal About the Regulatory Race in Drone Delivery」という記事では、欧州、米国、UAEなどのドローン配送をめぐる制度環境が比較されています。
この記事で特に興味深いのは、ドローン配送の課題を単に「飛行許可」や「機体性能」の問題として見ていない点です。むしろ、社会実装に必要なのは空域のルールだけでなく、離着陸拠点、地域合意、騒音、環境影響、行政手続きまで含めた一体的な運航環境である、という視点が示されています。
Mannaの事例が示したもの
記事の出発点になっているのは、アイルランド発のドローン配送企業Mannaの動きです。
Mannaは、欧州でも有力なドローン配送事業者の一つであり、これまで多数の商業配送を実施してきた企業です。しかし2026年6月、同社はアイルランド国内での配送運航を停止し、今後の成長投資を米国、英国、UAEなどに振り向ける判断をしました。
ここで重要なのは、Mannaが航空安全上の理由で止められたわけではないという点です。
記事によれば、問題となったのは、ダブリン近郊のDundrum Town Centre付近に新設しようとしていた配送拠点です。地元自治体は、ドローンの騒音評価や生態系への影響評価が十分ではないとして、計画許可を認めませんでした。
つまり、空を飛ぶための制度や技術だけではなく、地上側の拠点整備、地域への説明、騒音や環境への配慮が、事業継続の大きな条件になったということです。
これは、ドローン配送の社会実装を考える上で非常に重要な示唆です。
ドローンは空を飛びます。しかし、事業として運航する以上、必ず地上に拠点があり、周辺地域があり、施設管理者がいて、住民がいて、発注者がいます。空のルールだけを見ていても、実際の運航は成立しません。
米国、欧州、UAEで異なる制度環境
記事では、米国、欧州、UAEの制度環境についても比較されています。
米国では、FAAによるPart 108という新たなルールが注目されています。これは、目視外飛行をより恒常的に実施できるようにするための制度として期待されているものです。現在のドローン配送にとって、BVLOS運航をどのように認め、どのように管理するかは非常に大きなテーマです。
ただし、記事は米国を一方的に高く評価しているわけではありません。Part 108はまだ最終化されたルールではなく、実際に制度が動き始めた後も、審査や運用の処理能力が課題になる可能性があると指摘しています。制度があることと、現場でスムーズに運用できることは別問題です。
一方、欧州についても「遅れている」と単純に整理しているわけではありません。EASAによる共通ルール、SORA、U-spaceなど、空域管理やリスク評価の枠組みは整備が進んでいます。むしろ、制度としては非常に高度な側面もあります。
しかし、欧州では国ごとの運用差や、自治体レベルでの土地利用、騒音、環境評価などが重なります。航空当局が飛行を認めても、自治体が拠点整備を認めなければ、事業としては進みません。Mannaの事例は、まさにその現実を示しています。
UAEについては、空域アクセスや運航に関する制度設計がより一体的に進められている例として紹介されています。ドローン配送や点検などを見据え、空域管理と事業運航の道筋を国として明確にしている点が、事業者にとっての予見可能性につながっているという見方です。
ドローン配送は「単発の飛行」ではない
今回の記事から読み取れる最も大きなポイントは、ドローン配送や遠隔運航は、単発の飛行ではないということです。
一度だけ飛ばすのであれば、個別の飛行計画、操縦者の操縦技量、当日の安全確認で成立する場面もあります。しかし、配送、巡回、警備、点検、災害対応支援などを継続的なサービスとして実施する場合、求められるものは大きく変わります。
- どこから離陸し、どこへ着陸するのか。
- 誰が飛行可否を判断するのか。
- 周辺住民や施設管理者には、どのように説明するのか。
- 異常時には、誰が、どの基準で、どのタイミングで中止判断を行うのか。
- ヒヤリハットや不具合は、どのように記録し、次の運航に反映するのか。
これらが曖昧なままでは、たとえ制度上は飛行できたとしても、継続的な運航としては成立しにくくなります。
ドローン配送やレベル4を含む高度な運航では、操縦者個人の操縦技量だけで安全を担保することはできません。機体性能が向上し、自動化が進んだとしても、運航判断、役割分担、緊急時対応、関係者との合意形成が不十分であれば、社会の中で継続する運航にはなりません。
これから必要になる「飛ばし続けられる仕組み」
日本においても、今後ドローン配送や遠隔運航を本格化させるには、操縦者教育だけでは不十分です。
もちろん、操縦者が航空法や機体特性を理解し、必要な操縦技量を備えていることは大前提です。しかし、それだけでは足りません。
- 自治体、施設管理者、地域住民、発注者を含めた合意形成
- 事前に運航の目的、範囲、役割分担、判断基準、緊急時対応を整理するConOps
- 運航前のプリブリーフィングと、運航後のデブリーフィングによる振り返り
- ヒヤリハットや改善点を組織として蓄積し、次の運航に反映するSMSの考え方
これらは、単に「安全意識が高い会社だから行うもの」ではありません。
今後、ドローン配送や遠隔運航を本格化させる事業者にとって、運航を継続可能な形に整えるための実務上の前提条件になっていくと考えています。言い換えれば、これからのドローン事業者に求められるのは、「飛ばせる人材」だけではなく、「飛ばし続けられる仕組み」を設計できる力です。
ダイヤサービスが重視していること
ダイヤサービスでは、ドローン運航において、CRM、SMS、ConOps作成、プリブリーフィング、デブリーフィング、安全報告といった考え方を重視してきました。これは、単に航空分野の考え方を取り入れているという話ではありません。ドローン運航を、現場で継続できる形に整えるために必要な実務だと考えているからです。
ドローンは、機体を購入すれば飛ばせます。資格を取得すれば、一定の飛行は可能になります。しかし、事業として継続する運航には、それだけでは足りません。
飛ばす前に何を合意し、誰がどの判断を担い、問題が起きたときにどう止め、どう記録し、どう改善するのか。そうした一つひとつの積み重ねが、運航の信頼性を作ります。
今回紹介した海外事例は、ドローン配送の成否が技術力だけで決まるものではないことを示しています。制度、拠点、地域との関係、運航管理、そして現場で守り続けられる運用設計・・・。これらを一体として整えられるかどうかが、これからのドローン産業界における重要な競争力になっていくはずです。

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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