はじめに
ドローンが工事現場や点検作業をはじめとしたケースで活用されることが、少しずつ増えています。
とはいえ、まだ「目の前でドローンが飛んでいる光景」を見る機会は限られており、その運航の実態や現場での判断体制についても、一般にはあまり知られていません。
多くの現場では、操縦者と補助者(私たちでいうGA)がチームで飛行を行っています。しかしその中でも、「飛ばすかどうかの判断」「機体の状態監視」「飛行中のテレメトリー確認」など、最も重い判断が操縦者に集中してしまっているのが実情です。
現場対応としてそれが現実的なことも、私たちは理解しています。
それでも、こう考えています。
ドローンは誰も乗っていない。だからこそ、一人にさせてはいけない。
小型ヘリとの共通点と、決定的な違い
小型ヘリコプターのパイロットは、気象の確認から飛行計画の立案、そして操縦まで、一人で完結することも多くあります。
ドローン運用も、今のところそれに似た形になりがちです。なぜなら、ドローンもまた「現場に操縦者が立っている」からです。けれど、決定的に違うのは、そこに“人が乗っていない”ということ。
操縦者の命は機体に乗っていない。それは判断の重みが変わるということです。
この違いが、運航体制における構造的なリスクにつながると私たちは考えています。
「一人では担いきれない」5つの理由
1. リスクが操縦者ではなく「他人」に向かう
小型ヘリが墜落すれば地上を巻き込むリスクがあります。ただし操縦者自身も機内におり、“自分ごと”としてすべてを判断します。ドローンでは操縦者が安全圏にいるため、リスクは常に他人に向かう構造になります。その分、判断と監視をチームで補う仕組みが欠かせません。
2. 操縦中の人間は、それ以外が見えづらい
多くの操縦者が、風の強さを肌で感じ、テレメトリーを見ながら周囲の安全を確保し、慎重に操縦しています。
その努力は本当に尊いものです。ただ、それが常に十分かと問われれば、限界があるのも事実です。人の注意力には上限があり、“全部を一人でやる”には無理が生じます。
3. 感覚に頼れない構造
ドローンは「人が乗らない航空機」です。振動や揺れ、異音の変化など、小型ヘリなら操縦者が体で感じ取れる情報も、目視外飛行ともなるとドローンではすべてセンサーと画面を通じてしか分かりません。だからこそ、感覚よりも役割分担や客観的な情報共有が不可欠です。属人的な運用から、再現可能な仕組みへ移行する必要があります。
4. 緊急時、「止められる人」が別に必要
飛行中に異常が発生したとき、操縦中の本人だけでは判断や操作が遅れることがあります。機体に異常が出た瞬間、周囲の状況、落下リスク、通信状態……。そんなときに、「それ、止めましょう」と冷静に判断できる存在が、現場には必要です。それがFMO(現場統括)であり、OCC(運航管理)です。
5. 属人化は、組織の再現性を壊す
「あの人なら大丈夫」という運用は、その人がいなければ成り立たず、事故が起きたときの検証も曖昧になります。“仕組みとして安全が担保される”状態こそが、現場にとって本当に強い体制だと私たちは信じています。
私たちが目指している運航体制
私たちは、ドローン運航を「チームで支える仕組み」に変えていきたいと考えています。
人を増やすことが目的ではありません。「一人にさせない」「属人化させない」ための仕組みを持つこと。これが、私たちが考える次世代の運航体制です。
「それ、結局コストでしょ?」という声に応える
「でも、それって結局、人が増えるってことでしょう?コストでしょ?」
――ええ、それは確かにその通りです。
私たちは、“人数を増やさずにすむ方法”を模索しているわけではありません。むしろ、安全管理においては、一定の人員増加は避けられない。そこを削って成立する“効率”は、長続きしないことを私たちは知っています。
けれど、それを単なる「支出」と見るか、「リスクを最小化し、信頼と継続性を最大化する投資」と見るかで、意味はまったく変わります。
私たちが大切にしたいことは、こうです。
- どこで、どのように役割を分ければ安全が高まるのかを見極めること。
- 属人化を避け、再現性のある安全体制を確立すること。
- “事故が起きなかった”という結果に、確実な根拠を持たせること。
それができるチームや組織こそ、顧客にも社会にも選ばれ続ける存在になると、私たちは信じています。
ドローンは、誰も乗っていない。
だからこそ、一人にさせてはいけない。
この考え方は、安全の理想ではなく、産業としての責任のかたちだと思いませんか?

戸出 智祐(株式会社ダイヤサービス 代表/“ドローン安全ヘンタイ”)
ドローン運航安全の分野で10年以上の経験を持つ、安全管理・教育の専門家。全国の自治体や企業など10社以上に対して、航空業界レベルの安全運航体制づくりや研修、コンサルティングを行ってきました。
操縦技量だけでなく、チームや組織の“ノンテクニカルスキル”を重視し、現場で本当に役立つ安全文化を普及することに情熱を注いでいます。自ら現場で危険な経験をしたことが原点で、「誰もが安心して働ける現場」を本気で目指して活動中。
千葉市花見川区を拠点に、現場目線でリアルな課題解決にこだわり続けています。無類の車好き。ブログでは、同じ現場型の読者の方と想いを共有できればと考えています。