2025年6月1日、労働安全衛生規則が改正され、屋外作業を行う事業者に対して熱中症対策が義務化されました。
これは、建設業や警備業だけの話ではありません。
屋外でドローンを飛ばす私たちの業界も、明確に対象になります。
ドローン運航も「屋外作業」が多いです
気象条件に大きく左右されるドローン運航は、多くの場合日中・屋外で行われることが多いです。
操縦者や補助者、現場の責任者が長時間直射日光のもとに立ち続けることも少なくありません。
空を飛ばす仕事だからこそ、地上の安全が何よりも重要です。
そして熱中症対策は“気をつけよう”ではなく、“仕組みで守る”ものへと移行しています。
何が義務化されたのか?
以下のような項目が、すべて「企業の責任」として義務化されました。
違反すれば、労働基準監督署からの是正勧告や、最悪の場合は業務停止命令などの行政指導対象にもなります。
対応項目 | 内容 | 義務内容のポイント |
---|---|---|
報告体制整備 | 自覚症状者や発見者がすぐに報告できる体制 | 事業場ごとに連絡担当とルートを定め、周知義務あり |
初動対応手順 | 中断・冷却・医療対応・搬送手順などを定める | 重症化防止措置を手順化・周知義務あり |
対象作業の明確化 | WBGT 28℃以上または気温 31℃以上、1時間以上または4時間超の作業 | 対象条件に該当する場合のみ義務化 |
周知・教育 | 手順・体制を関係者全員に周知・伝達 | 通達上、周知徹底が義務 |
違反した場合の罰則は?
熱中症対策の義務化に違反した場合、労働安全衛生法に基づき、以下の行政処分や刑事罰の対象となる可能性があります。
項目 | 内容 |
---|---|
是正勧告・指導 | 労働基準監督署による立ち入り調査後、改善命令が出される可能性があります。企業名が公表されるケースもあります。 |
使用停止命令 | 状況が重大な場合、作業の一時中止命令(使用停止)が出されることがあります。 |
書類送検・罰金 | 労働安全衛生法第119条等に基づき、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(特に初動対応義務違反などで重大事故が発生した場合)。 |
「熱中症だけ」では足りない。疲労も管理対象です。
改正法令で「疲労管理」自体が明示的に義務化されたわけではありませんが、ドローンの安全運航においては極めて重要なファクターです。
こうした状態は、判断力・集中力の低下を招き、事故の温床になります。
だからこそ、企業としては熱中症対策と並んで、疲労の可視化と管理にも取り組む必要があります。
安全対策は“準備していたかどうか”で評価される
事故や体調不良が起きたあとに「想定外だった」では、プロとは言えません。
求められているのは、起きる前に備えておく体制です。
- どのタイミングで休憩をとるのか
- 何をもって運航中止と判断するのか
- 誰が現場の体調を管理するのか
- 万が一の症状発生時、どう動くのか
これらすべてが明文化され、共有されていることが前提になります。
対応している事業者、どれくらいありますか?
制度が始まっても、「自分たちは関係ない」「やっているつもり」というスタンスのままの事業者も少なくありません。
しかし発注者の立場から見れば、安全に対して“明確な体制”を持っているかどうかは、事業者を選ぶうえでの重要な判断基準になります。「うちは大丈夫だと思いますよ」ではなく、“何を・いつ・どうやって”やっているかを説明できる必要があります。
当社では、熱中症・疲労ともに制度として管理しています
私たちダイヤサービスでは、以下のような体制を制度として日常的に運用しています。
区分 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
運用ルール | 運航管理規程への明記 | 熱中症対策と疲労管理の判断基準・対応手順を明文化し、全従業員に周知済み |
事前対策 | 健康チェック | 飛行当日の朝に操縦者・補助者・現地責任者の体調確認を実施 |
〃 | 気象・WBGTチェック | 天気・風速・WBGT値・熱中症警戒アラートを確認および記録し、運航の可否を判断 |
〃 | 疲労管理基準 | 連続勤務制限・業務後の休息・睡眠不足の把握などを基準化 |
現場対策 | 冷却用品の配備 | 水冷ベスト・携帯型ファンを全員に無償貸与 |
〃 | 飲料・補給品の提供 | OS-1、ミネラルウォーター、熱中症予防飴を常備・配布 |
〃 | 休憩環境の整備 | 運航スケジュールの調整による計画的休憩の実施 |
緊急対応 | 連絡体制・搬送手順 | 異常発生時の報告ルート・医療機関連絡・搬送判断フローを明確化 |
教育・定着 | 教育と訓練の実施 | 対策内容を講習や社内教育で体系的に共有 |
実は、応急手当講習にも「熱中症対応」が含まれています
もし現場で熱中症の兆候が見られたら・・・
その時、誰がどう判断し、どう動くのか?
私たちダイヤサービスでは、ドローン現場に特化した応急手当講習を実施しており、その中には熱中症の初期対応や重症化防止の実践内容も含まれています。
- 症状の見分け方(軽症/中等症/重症)
- 意識がある・ない場合の対応手順
- 迅速な冷却の方法(実演あり)
- 救急要請と搬送時のポイント
単に知識を得るだけではなく、実際の現場で動けるレベルに引き上げるためのトレーニングです。
最後に
安全は、「気合い」や「経験」だけでは守れません。守るべき命があるから、仕組みをつくる。それがプロの責任です。制度が始まったから仕方なくではなく、事故を未然に防ぐという原点に立ち返って、取り組みの質を見直してみませんか?
私たちも、まだまだ改善の途上です。だからこそ、業界全体で底上げしていきたいと、そう考えています。