エアマンシップの徹底と安全の追求で、空の可能性を誰もが安心して享受できる世界を。

「飛ばさない」を、胸張れる判断に。DS-FOMSにFRATを組み込みました

ドローンの現場では、毎回のように同じ問いがやってきます。「今日は飛ばせるか、やめておくべきか」。空を見上げ、風を確かめ、スタッフやお取引先様の顔色を伺って決める。長い間、この判断は操縦者の感覚に委ねられてきました。今回、その判断を支えるFRAT(飛行前リスク評価ツール)を、当社の運航管理システム「DS-FOMS」に組み込みました。何を、なぜ変えたのか。現場の目線でお伝えしていきます。

「飛ばすか、やめるか」を、勘で決めてきた

経験を積んだ操縦者ほど、GO・NO-GOの勘はよく当たるものです。風の流れ、雲の動き、機体の調子。言葉にしづらいものを総合的に勘案して、離陸するかどうかを決めてきました。

ただ、勘にはどうしても弱点があります。その日たまたまプロポを握っていたのが誰かによって、判断の基準がずれてしまうということです。石橋を叩くベテランと、経験の浅い操縦者とでは、同じ空を見ても答えが変わります。

さらに困るのが、あとから説明できないことです。「なぜ中止したのか」「なぜあの日は飛ばしたのか」。顧客や保険会社にそう問われたとき、示せるのが記憶だけでは、プロの仕事として心もとない。ここに、ずっと課題を感じていました。

FRATとは、飛行前にリスクを点数化するしくみ

FRATそのものは、新しい発明ではありません。有人航空の世界で使われてきた、飛行前のリスク評価の手法です。土台にあるのは「PAVE」という枠組みで、操縦者(Pilot)、機体(Aircraft)、環境(enVironment)、外的な圧力(External pressures)という4つの視点から、離陸前にリスクを洗い出す考え方です。

当社は、この発想をドローン運航に持ち込みました。ポイントは、4つを別々のものとしてバラバラに扱うのではなく、DS-FOMSという一つの流れの中で押さえていくことです。

DS-FOMSは、PAVEをどう押さえているか

操縦者(P)は、飛行前の健康チェックで確認します。体調や睡眠、当日のコンディションを、離陸前のルーティンとして記録に残します。

機体(A)は、飛行前点検で押さえます。機体とバッテリー、プロペラや通信の状態を、点検項目にそって一つずつ確認します。

そして環境(enVironment)と空域、測位は、FRATのスコアが自動で拾います。気象では、平均風速と地上の突風、降水、視程、暑さ指数(WBGT)、雷リスク(CAPE)、実況の雨雲や台風の接近。空域では、人口集中地区(DID)や航空情報(NOTAM)。測位では、GNSSの衛星数とPDOPから見た可用性。これらを経路上の9地点でチェックし、最も条件の悪い地点でまとめて判定します。

一つひとつは「まだ大丈夫」に見えても、合算すれば、ごまかしのきかない一つの答えになります。緑はGO、黄はCAUTION(対策してから)、赤はNO-GO。100点満点のスコアと、この3段階で返ってきます。健康チェックと飛行前点検、そしてこのスコア。三つを合わせれば、PAVEの多くをDS-FOMSの中で押さえられるようになりました。

残る一つ、「外的な圧力」は、いまも人の側にある

ここで正直にお伝えしておかなければならないことがあります。PAVEの最後の一つ、「外的な圧力」だけは、いまのDS-FOMSは点数に入れていません。本当は見送るべき場面でつい手が伸びてしまう、あの見えない圧力です。

工程が押している、顧客が現場で待っている、「片道3時間かけて来たのだから」。こうした圧力を、システムは感じ取れません。数字にならないものは、正直に「まだ見ていない」と言うべきだと考えています。

では、なぜスコアが効くのか。話は逆です。圧力に流されそうなときこそ、測れる条件から出た赤い判定が、踏みとどまる根拠になるからです。「私が怖いから中止します」ではなく、「システムがNO-GOだから中止します」。この一言があるだけで、現場は圧力に対して強くなれます。人が抱える一番厄介な部分を人に残したまま、その人を裏側から支える。それが、いまのFRATの立ち位置です。

DS-FOMSに組み込んで、変わった2つのこと

(1) 判断が、その日の担当者でぶれなくなった

一番の変化は、判断の出発点が揃ったことだと考えています。慎重なベテランも、まだ経験の浅い操縦者も、同じ条件を同じ物差しで点数化し、同じ3段階で受け取ります。「なんとなく不安」だった感覚が、目に見える数字に変わりました。

(2) すべてのGO・NO-GOに、記録が残る

もう一つは、判断の一件ごとに記録が残ることです。健康チェックと飛行前点検、その日の気象と空域、そして最終スコア。「なぜ中止したのか」と聞かれたとき、記憶をたどるのではなく、その場で根拠を示せます。中止の判断が、言い訳ではなく実績になりました。

それでも、最後に決めるのは人間

念のため申し添えますが、FRATは操縦者の判断を置き換えるものではありません。腕のある操縦者は、スコアを見た上で自分の判断を優先できますし、優先できるべきです。

FRATがやるのは、プロペラが回り出す前に、測れるリスクを目の前に並べること。そして「今日は飛ばさない」という決断を、あとで釈明を探す勘ではなく、胸を張れるプロの判断に変えることです。

現場を知る人間が、現場のために

このFRATは、もともと自社のためだけに作った社内ツールでした。それが今、DS-FOMSの機能の一つになっています。目立つような新機能ではありませんが、毎日の一回一回の離陸を確実に支えるしくみだと考えています。

外的な圧力までどう扱うかは、これからの課題ですね。現場の声を聞きながら、少しずつ育てていこうと思っています。ドローンの運航管理や飛行前の安全判断のしくみづくりに関心のある方は、ぜひ一度お声がけください。現場で使い込んできた経験を、御社の運用に合わせてお話しできればと思います。

<strong>戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)</strong> ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。 ▶ 講習・コンサルのお問い合わせ <a href="https://daiyaservice.com/inquiry/">https://daiyaservice.com/inquiry/</a>

関連記事