令和8年熊本地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、厳しい状況のなかで救助、消火、医療、避難所運営、インフラ復旧などに従事されている皆様に、深く敬意を表します。
2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7が観測されました。気象庁は、揺れの強かった地域では地震発生から1週間程度、最大震度7程度の地震に注意し、特に2~3日程度は強い揺れをもたらす地震が発生する可能性が高いと呼びかけています。
今はまさに救命・救助・被害状況の把握が優先される段階です。
参考:気象庁「令和8年7月28日16時27分頃の熊本県熊本地方の地震について」(2026年7月28日)
複数の災害対応を経験したからこそ、伝えたいことがあります
弊社はこれまで、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、2018年1月の草津白根山(本白根山)噴火、令和6年能登半島地震、令和6年9月20日からの大雨、いわゆる令和6年奥能登豪雨などの際に、関係機関等から出動要請を受けてきました。
実際に現地へ入ったケースもあれば、出動に向けて情報を収集し、機体や人員を準備した上でスタンバイしたケースもあります。災害の種類も、求められた役割も、それぞれ異なります。
その経験があるからこそ、強く申し上げたいことがあります。
災害対応に関する知識や訓練を持たない人は、発災直後の被災地へ自分の判断だけで入らないでください。
ドローンを使って何か役に立ちたい。その思い自体は、とても大切です。しかし、思いがあることと、現場で安全に役割を果たせることは別です。入念な事前準備もないまま被災地へ向かう行動は、支援ではなく、新たな危険を持ち込むことになりかねません。
操縦経験が豊富でも、災害対応では「素人」になり得る
ここでいう「素人」とは、ドローンの操縦経験が浅い人だけを指しているわけではありません。
一等無人航空機操縦士であっても、業務で何百時間飛ばしていても、災害現場における指揮系統・危険予測・応急手当・通信手段・緊急離脱・活動限界・現地での自活について理解していなければ、災害対応に関しては素人です。
無人航空機操縦者技能証明は、災害対応能力を証明する資格ではありません。ドローンを安定して飛ばす能力と、余震が続く被災地でチームを安全に活動させる能力は、まったく異なるものです。災害現場は、操縦技量を披露する場所でも、災害対応を経験しながら覚える場所でもありません。
最も避けなければならないのは、二次災害を起こすこと
被災地では、余震による建物の倒壊、外壁や瓦の落下、道路の陥没、斜面崩壊、火災、ガス漏れ、切断された電線など、平時にはない危険が同時に存在します。7月末の暑さを考えれば、熱中症や脱水も大きなリスクです。
その環境で、自分たちのチームから負傷者や体調不良者を出したらどうなるでしょうか。救助や医療に当たっている方々の手を、自分たちのために割かせることになります。緊急車両が走る道路に車両を一台増やし、現地の燃料、食料、飲料水、電源、トイレ、宿泊場所を消費する可能性もあります。
支援に来たつもりが、支援される側に回ってしまう。これが二次災害です。
少なくとも、応急手当を担える人、現場で安全に滞在・撤収するためのサバイバルスキルを持つ人がチーム内にいないのであれば、発災直後の現地入りは選択肢に入れるべきではありません。
ただ、応急手当の資格を持つ人が一人いれば十分、という話でもありません。負傷者や体調不良者が発生した場合の対応、連絡手段、避難経路、搬送方法、活動中止基準、撤収判断まで、事前に決めておく必要があります。
食料、飲料水、電源、燃料、トイレ、宿泊場所も含めて自分たちで確保し、現地に新たな負担を生まないことも大前提です。「何かあったら119番へ電話する」以外の計画がないチームは、災害現場へ入る準備ができているとは言えません。
ドローンは、救助活動の妨げにもなります
空から被災状況を確認できることは、ドローンの大きな強みです。しかし、発災直後の空域では、消防、防災、警察、自衛隊、海上保安庁、ドクターヘリなどの有人機が、捜索、救助、情報収集、物資輸送のために飛行する可能性があります。
災害時の捜索・救助等には航空法第132条の92に基づく特例がありますが、これは「災害が起きたから誰でも自由に飛ばしてよい」という制度ではありません。国や地方公共団体、またはその依頼を受けて捜索・救助等を行う者が対象です。国や地方公共団体に関係しない独自の活動は、原則として特例の対象になりません。
そもそも、要請を受けたからといって、すぐに飛ばせるわけでもありません。
誰からの要請なのか。何を確認する飛行なのか。取得したデータを誰が受け取り、どのような判断に使うのか。有人機や他の無人航空機との空域調整は誰が行うのか。離着陸場所と飛行経路の安全を誰が確認するのか。通信が途絶えた場合や、有人機が接近した場合にどうするのか。
これらが整理されて、初めて運航の検討が始まります。
被害映像を撮影できることと、災害対応に貢献できることは、まったく別の話です。
2016年の熊本地震では、一度も飛ばさずに帰りました
私自身、2016年の熊本地震で現地に入りました。建物、特に戸建住宅の屋根の損壊状況を確認する役に立てればと考え、ドローンを持参して向かいました。
ところが、現地で目にした被害は、想定していたものとはまるで違いました。被害は局所的に極めて激しく、戸建住宅の1階部分が潰れている。屋根の損壊状況を確認する、という段階ではなかったのです。
もちろん、ただ飛ばすだけなら飛ばせました。上空から被災した街並みを撮影することもできたでしょう。しかし、それは私たちのやることではない。途方に暮れている現地の皆様にとって、邪魔や冷やかしと受け取られる可能性のあることは、絶対にしてはならない。そうチームで判断し、結局、一度も飛ばすことなく帰投しました。
現場まで行った以上、何か成果を持ち帰りたい。せっかく現地まで来たのだから、少しでも飛ばしたい。そんな心理が生まれることはあります。
それでも、必要がなければ飛ばさない。
ドローンを持っているからといって、そこにドローンを使うべき仕事があるとは限りません。技術的に飛行可能であることと、災害現場で実施すべきであることは同じではないのです。
ガイドラインを作ったのも、経験だけに頼らないためです
弊社では、これまでの災害対応や訓練で得た経験をもとに、2026年5月に「災害時ドローン運航安全ガイドライン」を公開しました。
参考:株式会社ダイヤサービス「災害時ドローン運航安全ガイドライン」(2026年5月30日、第1版)
ここでは、このガイドライン自体を宣伝したいわけではありません。
お伝えしたいのは、災害時のドローン運航には、事前に決めておかなければならないことが、それだけ数多くあるという事実です。運航目的、緊急性、公共性、空域、有人機活動、第三者管理、通信、気象、機体状態、役割分担、応急手当、緊急時対応、中止基準、記録方法・・・。現地へ向かう前に整理すべき事項は、機体を充電して車へ積み込むことだけではありません。
弊社では、FMO、PILOT、OCC、GA、FACなどの役割を分け、操縦者一人に安全判断を集中させない体制を基本としています。懸念が残る場合には、中止、延期、範囲変更、方法変更を正常な安全判断として扱います。こうした体制も、災害が起きてから慌てて作れるものではありません。平時から準備し、訓練し、チーム内で共通認識を作っておく必要があります。
「行かない」「飛ばさない」ことも、災害対応の判断です
今、災害対応の知識も体制もないドローン関係者が取るべき行動は、自ら現地へ向かうことではありません。行政、消防、警察、災害対策本部、社会福祉協議会などが発信する情報を確認し、正式な要請や受入体制が整うまで待つことです。
待っている間に、自分たちが提供できる機体、センサー、人員、通信手段、活動可能時間、応急手当体制、自己完結できる日数を整理する。要請を受けた場合には、目的、役割分担、空域調整、危険要因、緊急時対応、撤収基準までをConOpsとしてまとめ、チーム全員でプリブリーフィングを行った上で現地へ入る。この順序が必要です。
災害時に本当に役立ちたいのであれば、平時に準備してください。
応急手当、危険予測、サバイバル、通信、チーム連携、疲労管理、航空運用調整を学び、繰り返し訓練しておく。現場から要請されたときに、初めて考え始めるのでは遅いのです。
飛ばせるけれど、飛ばさない。
現地へ行けるけれど、今は行かない。
災害現場で問われるのは、操縦技量以上に、その判断ができるかどうかです。
支援の価値は、「現地へ行ったか」「ドローンを飛ばしたか」では決まりません。現場に新たな危険と負担を持ち込まず、本当に必要とされる役割を果たせたか。それだけです。善意を、二次災害のきっかけにしないようにしましょう。

戸出 智祐(代表取締役 / ドローン安全管理コンサルタント)
ノンテクニカルスキル講習(CRM、チームビルディング、 日本初のドローン応急手当講習)を提供。米国FAAのSMS義務化に先行したノウハウで、 1,000時間超の運航経験(失敗含む)からSMSを構築。 2023年より3年連続で安全報告書を自主公開している、日本唯一の現場安全管理・リスクマネジメント実践者です。 このブログでは、教科書に載っていない 現場の実践知と失敗から学んだ教訓を共有します。
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