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疲労が引き起こすのは“判断ミス”〜ドローン運航における「人」の限界と向き合うために〜

ドローン運航と聞くと、「遠くから操縦しているだけで、楽な仕事」と思われがちです。
しかし実際は、現場ごとの地形や風、周囲の障害物、システムの動作状況など、次々に変化する要素に対応しながら、安全を守り続けなければならない業務です。

操縦そのものは短時間でも、事前準備・機体チェック・飛行後の点検・記録など、現場では休む間もなく判断と作業を繰り返すことになります。
問題は、疲れていても本人には「まだ大丈夫」と感じてしまうことが多い点です。
だからこそ私たちは、疲労を“気合”や“自己管理”で片付けず、ルールとして制限を設ける必要があると考えています。
安全を「個人の努力」に頼るのではなく、しくみで支えるのがプロだという認識です。

私自身の苦い経験から

疲労の怖さを、私自身が実感したできごとがありました。
ある日のフライト、目視で飛ばすことが本来可能な場面だったのに、私はその場で横着をしました。
「立ち位置を変えるのが面倒だ」「少しくらいなら大丈夫だろう」そんな慢心と、明らかに疲れがたまっていた体が、私を動かしませんでした。

結果、ブラインドになっていた木に気づかず、機体を引っ掛けてしまいました。
「見えていれば避けられた」事故。それでも、その一歩が踏み出せなかったのです。
これは明確に、疲労によって判断が鈍った事故でした。

もう一件、スタッフのケースも

別のスタッフも、連日の過酷な運航のなかで、似たようなミスを経験しました。
日の出から日の入りまで、毎日のように続いた繰り返しフライトによって、状況認識力が明らかに鈍っていたのです。普段なら当然回避できていたはずの障害物に気づかず、距離感を誤り、やはり木に衝突。

当人は事故直後、「なんであれが見えなかったのか、いまでも信じられない」と話しました。
でも、疲労は確実に見えるものを見えなくするのです。こちらは2023年度の安全報告書にも掲載しております。

だからこそ、疲労管理は「制度」にしなければならない

人は、疲れていても「自分はまだ大丈夫」と思ってしまう生き物です。だからこそ、個人の自己判断に頼るのではなく、ルールとして管理する必要がある
それが、私たちが導入した「疲労管理基準」の背景です。

当社の疲労管理基準

  • 飛行勤務時間(FDP)は原則8時間以内(夜間を含む場合は6時間)
  • 1.5時間ごとの連続運航ごとに10分以上の休憩を必須
  • 業務終了後には10時間以上の休養を確保
  • 週7日連続勤務の禁止

これらのルールは「厳しすぎる」のではなく、当たり前の安全基準であるべきだと考えており、運航管理規程にも当然掲載しております。

最後に

私たちが疲労管理にここまで取り組むのは、実際に事故を起こしたからです。
そして、それを隠すことなく正直に発信するのは、同じような失敗を誰にも繰り返してほしくないからです。

ドローン産業界が真に社会に信頼される存在になるためには、機体や制度の進化だけでなく、「人間の限界」を正しく理解し、マネジメントする文化が必要です。

疲労とどう向き合うか。
それは、安全をどう考えているかという、組織としての姿勢そのものだと思っています。

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